人に頼むには代償が必要

「私は彼女を愛しているから、今日ここに来たんです」と秋山瑛真は答えた。

田中悠仁は少し驚いたような様子で「あなたが彼女を愛している?」

「はい」

「でも、あなたは彼女の弟じゃないですか」

「私と彼女の間には血のつながりはありません。弟という呼び方も、ただ子供の頃からの呼び方に過ぎません」瑛真は悠仁を見つめながら言った。「以前は、彼女と血のつながりがないことを幸せに思っていました。そうすれば、堂々と彼女を愛することができるから。でも今は、彼女と血のつながりがないことを憎んでいます。もし私たちが血縁関係にあれば、私の血で彼女を救えたかもしれないのに!」

もしそうだったら、どれだけの血を抜かれても、喜んで差し出したのに!

「じゃあ、どれほど彼女を愛しているんですか?」と悠仁は尋ねた。

「彼女のためなら何でも捧げられます」と彼は答えた。

「自分の命も含めてですか?」

「はい!」彼は躊躇なく答えた。

悠仁は沈黙し、しばらくしてから言った。「でも愛という感情は変わるものです。今は彼女のために命を捧げる覚悟があっても、将来、彼女があなたの目には何の価値もない存在になるかもしれない」

彼の父と母のように。父は以前、母を愛していると言っていたし、母も父を愛していた。

でも後に、父と母の喧嘩は増えていき、最後には喧嘩が原因で交通事故で亡くなってしまった。

もし人を愛することの結末がそうなるのなら、愛するもしないも、何の意味があるのだろうか?

「そんなことはありません!」瑛真の声が高くなった。「彼女への私の愛は、永遠に変わることはありません」

「何を証拠に?」と悠仁は言った。

瑛真は突然短刀を取り出した。傍にいた山本綾音は驚いて「瑛真さん、やめて……」

彼女の言葉が終わらないうちに、瑛真は自分の腕に短刀で一本の傷を付けた。たちまち、鮮血が溢れ出した。

「な、何をするんですか!」綾音は急いで前に出た。彼女は最初、瑛真が悠仁に危害を加えようとしていると思ったが、まさか自傷行為をするとは!

しかし瑛真は綾音の言葉を無視し、ただ悠仁を見つめながら言った。「前に私があなたを誘拐したことで、不快な思いをさせたのなら、謝罪します。心春を救ってくれるなら、私にどんなことをさせても構いません!」