仁藤心春が顔を上げると、山本綾音が入ってきた。
「さっき戻ってきたとき、看護師さんから、また鼻血が出たって聞いたんだけど?」山本綾音は心配そうに尋ねた。
「うん、でもすぐに止まったわ」仁藤心春は軽く答えようとしたが、医療スタッフの口を封じることはできなかった。
「あのね...今夜は私が付き添いましょうか」山本綾音が言った。「今は父の状態も大分安定してきたし、母一人でも夜の看病は大丈夫だと思うわ」
「いいの、帰って」仁藤心春は言った。「どうせもうすぐ瑛真が来るはずだから」
彼女が入院している間、夜の付き添いは基本的にすべて秋山瑛真が担当していた。
病院の付き添いだけで十分だと伝えても、秋山瑛真は毎晩欠かさず彼女の病室で見守り続けていた。
「秋山瑛真は今夜来ないわ!」山本綾音が思わず口走った。