仁藤心春が顔を上げると、山本綾音が入ってきた。
「さっき戻ってきたとき、看護師さんから、また鼻血が出たって聞いたんだけど?」山本綾音は心配そうに尋ねた。
「うん、でもすぐに止まったわ」仁藤心春は軽く答えようとしたが、医療スタッフの口を封じることはできなかった。
「あのね...今夜は私が付き添いましょうか」山本綾音が言った。「今は父の状態も大分安定してきたし、母一人でも夜の看病は大丈夫だと思うわ」
「いいの、帰って」仁藤心春は言った。「どうせもうすぐ瑛真が来るはずだから」
彼女が入院している間、夜の付き添いは基本的にすべて秋山瑛真が担当していた。
病院の付き添いだけで十分だと伝えても、秋山瑛真は毎晩欠かさず彼女の病室で見守り続けていた。
「秋山瑛真は今夜来ないわ!」山本綾音が思わず口走った。
仁藤心春は不思議そうに親友を見つめた。「どうしてそれを知ってるの?」
「私...」山本綾音は唇を軽く噛み、言うべきか迷っているようだった。
仁藤心春の目が鋭くなった。「綾音、瑛真に何かあったの?教えて!」
山本綾音は深く息を吸った。「ちょっとした用事があって来られないだけよ。だから...ゆっくり休んでね」
————
夜になり、仁藤心春はベッドに横たわり、手に持った携帯電話を見つめながら、深い思考に沈んでいるようだった。
山本綾音は結局帰ってしまった。仁藤心春が、看護師が巡回に来るし、何かあったら緊急ナースコールを押すから絶対に問題ないと約束したからだ。
しかし綾音が帰ると、病室は一層静かに感じられた。
特にこんな夜には!
仁藤心春は唇を噛んだ。これまでの夜は、いつも秋山瑛真が傍にいてくれた。
そして今、おそらく初めて、夜の病室に彼女一人きりになった。
一人になって初めて気づいた。病室がこんなにも静かだということを。静かすぎて、少し寂しく感じるほどに。
そのとき、突然病室のドアが開いた。
仁藤心春は看護師の巡回かと思ったが、入ってきたのは意外にも秋山瑛真だった。
「どうして来たの?」彼女は驚いて相手を見つめた。
秋山瑛真は微笑んだ。「毎晩来てるじゃないか」
「でも...」彼女は唇を噛んだ。
「そうだ、今日病院を出て、戻ってきたときに鼻血が出たって聞いたけど?」彼は何気なく尋ねた。
「うん」彼女は答えた。