跪いた

秋山瑛真は躊躇することなく、そのまま真っ直ぐに田中悠仁の前に跪いた。

島田書雅は思わず息を飲んだ。秋山瑛真のような男が、こんなにも簡単に跪くなんて想像もしていなかった!

周りの通行人たちも、秋山瑛真が跪くのを見て、次々と振り返って見ていた。中には驚きの声を上げる人もいて、それは書雅の息を飲む音を消し去るほどだった。

田中悠仁は目を伏せ、目の前で跪く秋山瑛真を見つめた。「人を愛するということは、その人のためならどんなことでも耐えられるということなのか?どんなに傷つけられ、屈辱を受けても構わないということなのか?」

「少なくとも私にとっては——そうだ!」秋山瑛真は言った。「田中悠仁、私が心春を救って欲しいと頼むのは、彼女があなたのお姉さんだからじゃない。ただ、私が彼女を愛しているからだ!」

彼にとって、彼女は自分の命よりも大切な存在だった!

「理解できない。なぜ他人を自分より大切に思えるのか。」田中悠仁の目に戸惑いの色が浮かんだ。

「いつか君も誰かを愛するようになったとき、きっと今の私の気持ちが分かるはずだ。」秋山瑛真は言った。

……

島田書雅は自分がどうやってそこを離れたのか覚えていなかった。頭の中には、秋山瑛真が田中悠仁の前に跪いている光景が焼き付いていた。

そして心の中の嫉妬が、どんどん広がっていった。

なぜ仁藤心春が秋山瑛真のこんな献身を得られるのか、もうすぐ死ぬ人なのに!

もうすぐ死ぬ……島田書雅は突然はっとした。

そうだ、坂下倩乃が言っていた、仁藤心春は白血病だと。そして秋山瑛真が先ほど心春の弟に彼女を救って欲しいと頼んでいた。

もしかして……あの少年と心春の型が合ったということ?

もしあの少年が本当に骨髄移植を行うなら、それは心春が助かるということを意味するのでは?!

そう考えると、島田書雅の心臓が大きく跳ねた。

そんなの駄目だ。もし心春が助かったら、これからずっと秋山瑛真の側で贅沢な暮らしができるじゃないか。そして自分は、一生普通の生活を送るしかないかもしれない!

島田書雅は不満を抱きながら、今住んでいるアパートに戻った。

山田流真の会社が破産し、多額の借金を抱えていたため、山田流真は売れるものは全て売って、その借金の穴埋めをしていた。