この瞬間になってようやく、仁藤心春は我に返った。「山田流真からの電話です」
「山田流真?」秋山瑛真は一瞬驚いた。「彼が何の用で電話してきたんだ?」
「彼が悠仁を誘拐して、それで……」彼女は言葉を詰まらせ、唇を強く噛んだ。
秋山瑛真の表情が一変した。山田流真が田中悠仁を誘拐したのか?普段なら、田中悠仁の生死など気にも留めなかっただろうが、今は、田中悠仁は心春の命に関わる存在なのだ。
「くそっ!」秋山瑛真は思わず罵声を上げた。田中悠仁の側に護衛を付けておくべきだった!油断していたのは自分だ!
「何を要求してきた?」秋山瑛真は追及するように尋ねた。
「一億米ドルです。一週間後に支払うように、と」仁藤心春は苦々しく言った。「それができないなら、温井家の寶石の劍と、百万米ドルの現金を要求してきました」