仁藤心春の表情が不自然になった。「ただ……援助してくれたことへのお礼を言いに来ただけです」
秋山瑛真の心が沈んだ。彼女の表情とその言い方から、温井卿介が夜遅くに病室に来たのは、単なるお礼を求めるためではないことは明らかだった。
温井卿介は一体何をしに来たのか?
また彼女との昔の恋を蘇らせようとしているのか?そして彼女は?今の温井卿介に対してどんな感情を持っているのか?
昨夜、この病室で抱き合ったのか?あるいはもっと親密な接触があったのか?
聞きたかった。彼女の心にまだ温井卿介がいることを恐れ、自分は単なる代役に過ぎないのではないかと。もし温井卿介が彼女の心を取り戻そうとしたら、自分にはもう何のチャンスも残されないのではないかと。
しかし今の自分には、そんなことを聞く立場にもない。
彼女が自分にした約束は、もし生き延びることができたら、自分のことを好きになろうと努力するということだけだった!
今の二人には、実際何の関係もない。
むしろ彼女の今の自分に対する感情は、ただの久しぶりに会った弟のような存在でしかない。
「心配しないで。あなたが考えているようなことは何も起きていないわ」仁藤心春は突然手を上げて、秋山瑛真の頭を撫でた。
彼は呆然として彼女を見つめた。彼女のアーモンド形の瞳は、まるで彼の今の心の内をすべて見透かしているかのようだった。
「私は温井卿介にもう何の感情もないわ。本当に何かあるとすれば、今回助けてくれたことへの感謝だけ。それ以前のすべての感情は、もう清算済みよ」と彼女は言った。
秋山瑛真は少し落ち着かない様子で唇を噛んだ。「じゃあ、もう彼のことを好きになったり、愛したりすることは……ないの?」
「彼は誰かを愛することのできない人よ。だから、そんな人を私が愛する理由なんてないでしょう?」彼女は笑いながら反問した。
しかし彼の心はまだ不安だった。「でももし彼が愛せるようになったら?もしいつか、本当に彼があなたを愛するようになったら、あなたは彼を愛するの?」
仁藤心春は、不安そうな表情を浮かべる秋山瑛真を見つめた。そんな仮定は馬鹿げていると思った。そんな日は絶対に来ないからだ。それでも彼女は答えた。「ないわ。あなたは自分を傷つけた人をもう一度愛せる?」