まさか……彼は仁藤心春の瞳を見つめ、瞳孔が一瞬縮んだ。
「二少様、大丈夫ですか」運転手が近づいてきて、温井卿介の急に悪くなった顔色を見て、おそるおそる尋ねた。
「大丈夫だ。すべて計画通りに進めろ。『あれ』を持ってこい」温井卿介が言った。
「はい」運転手は応じて、振り返って用事を済ませに行った。
一方、温井卿介は遠くから仁藤心春を見つめ続け、自分の胸に手を当てた。
もうこれ以上不安がることはない。心配することもない。なぜなら最終的に、この女に危険は及ばないのだから。
仁藤心春は寶石の劍と現金の入った箱を持って、山田流真の船に乗り込んだ。
山田流真は船の反対側に立ち、田中悠仁は手足を縛られたまま、山田流真の傍らに立っていた。
傷だらけの田中悠仁を見て、仁藤心春は怒りを露わにした。「山田流真、私はあなたの要求を断っていないのに、どうして悠仁をこんな目に遭わせるの?!」