それぞれの思惑

山田流真はナイフで田中悠仁の足の縄を切ったが、手の固く縛られた縄は解かなかった。

田中悠仁は平然とした様子で仁藤心春の方へ歩いていった。まるで普段通りに歩いているかのように、これが命に関わる取引だとは誰も思わないほどだった。

一歩間違えれば、彼が最初に死ぬことになるかもしれないのに!

田中悠仁が仁藤心春を通り過ぎて小舟に乗ろうとした時、彼は突然こう言った。「僕を救いに来たのは、造血幹細胞を提供させて、あなたの命を救うためですか?」

仁藤心春は苦笑いを浮かべた。「そう思えばいいわ」

どうせ違うと言っても、ただ彼を救いたかっただけだと言っても、彼は信じないだろう。

それに、今の彼女は確かに生きたいと思っているし、彼に助けてもらいたいとも思っている。ただ...そんな期待を持っていることで、悠仁にとって、今の彼女の救出行為はより取引めいて見えるのだろう。