「心春!」温井卿介は手を伸ばし、彼女を掴もうとしたが、空を掴むだけだった。
海水の流れが彼女をさらに遠くへと押し流していった!
この瞬間でさえ、温井卿介は必死に仁藤心春に向かって泳いでいったが、彼の下の海流は、彼を反対側へと引っ張っていった。
人の力は、自然の前では、あまりにも無力だった。
「なぜだ?!」彼は必死に叫びながら、その影が彼の視界の中でどんどん小さくなっていくのを、ただ見つめることしかできなかった。
胸の中の窒息感は、ますます強くなっていった。
もし……もし彼女がこの世にいなくなったら、それなら……彼はどうすればいいのか?
どうやって生きていけばいいのか?
いけない……たとえ彼が彼女を愛していなくても、彼女はこの世界で生きていなければならない、彼と共に生きていなければ……