行かねばならない

田中悠仁は薄い唇を固く結んで、声を出さず、ただ山本綾音をじっと見つめていた。

「田中悠仁、今となっては、何を聞く必要があるの？心春が生きているか死んでいるかは、もうあなたには関係ないでしょう？あなたはずっと彼女に無関心だったじゃない？だから今さら、偽善的にこんなことを聞きに来て、何になるの！」山本綾音は怒鳴った。

「彼女は僕のお姉さんだ」しばらくして、田中悠仁はようやくそう言葉を吐いた。

しかし、この言葉は山本綾音にとって、とても耳障りなものだった！

「パン！」

彼女は手を上げ、田中悠仁の顔に思い切り平手打ちを食らわせた。

彼の顔は横を向いたが、田中悠仁は怒った表情も見せず、相変わらず無表情で山本綾音を見つめ、「彼女についての情報は本当にないのか？」と尋ねた。

山本綾音は複雑な思いで田中悠仁を睨みつけた。「ない！」

暗い影が彼の目に広がっていった。

「なぜないんだ？秋山瑛真と温井卿介が彼女の行方を探しているんじゃないのか？警察も含めて、これだけの人数で、どうして今でも彼女の行方が分からないんだ！」田中悠仁は呟くように言った。

山本綾音は冷ややかな目で相手の魂の抜けたような様子を見つめた。知らない人が見たら、きっと彼が仁藤心春というお姉さんをどれほど愛しているように見えることだろう！

「もし心春が本当にまだ生きているなら、あなたはどうするつもり？あなたの大切な造血幹細胞を彼女に提供するの？」山本綾音は嘲るように言った。

田中悠仁の体が急に硬直した。

山本綾音は続けて言った。「あなたが彼女に提供したくない、救いたくないのなら、彼女が今生きているか死んでいるか、見つかったか見つからないか、あなたにとってどんな違いがあるの？」

「提供するよ」田中悠仁は小さな声で言った。

「何？」

「造血幹細胞でも、血液でも、あるいは肝臓や腎臓の移植が必要なら、全部彼女にあげられる！全部提供できる……」彼は言った。

山本綾音は驚愕して田中悠仁を見つめ、今聞いたことが信じられないようだった！

全部提供する？

田中悠仁……これは心春が命がけで救った弟、今になってようやく人間らしい言葉を話し、ようやく心春を救おうとしている！

でも心春はまだ見つからない！