山本綾音はため息をついて、乗船場所を告げた。
田中悠仁が去っていく背中を見ながら、山本綾音は突然可笑しい気持ちになった。
なぜいつも人が見つからなくなってから、必死にその人を探そうとするのだろう?その人が大切だと気付くのだろう?
田中悠仁もそうだし、温井卿介もそうなのだ!
そして明日、本当に心春の手がかりは見つかるのだろうか?
どうあれ、心春がまだ生きていることを願う。生きていれば...骨髄移植で、生き延びる希望があるかもしれない!
————
翌日、乗船場所には温井卿介と山本綾音だけでなく、温井朝岚、秋山瑛真、そして田中悠仁もいた。
老漁師はこれらの人々を見て、少し意外に思った。予想以上に人が多かったのだ。
あの海域は潮流が複雑で危険なのに、このように冒険を敢えてする人々は、きっと行方不明者が自分にとって極めて大切な人なのだろう。
「では、出発しましょうか」老漁師は温井卿介に確認を求めた。
しかし温井卿介は老漁師に答えず、皮肉な笑みを浮かべた。「今日はこんなに大勢で出発するとは言っていなかったはずだ。それに、私が探しに行かなくても、お前が自ら門前に現れるとは思わなかったよ!」
言葉と共に、温井卿介は田中悠仁の前に直接歩み寄った。
「お前のせいで仁藤心春が今も行方不明なんだ。よくも乗船しようなどと考えられたな?」
「彼女は私のお姉さんです」この一言が、すべての理由を代弁しているかのようだった。
「お姉さん?」温井卿介は突然大笑い始めた。「はは...ハハハハ...」
この笑い声に、山本綾音は背筋が凍る思いがした。今の温井卿介は精神状態が正常ではない。何をするか分からない!
「よくもお姉さんなどと言えたものだ。あの時、お前は骨髓提供を拒否して、死なせようとしたじゃないか!」温井卿介は陰鬱な表情で言った。
「あなたはどうなんですか?お姉さんと別れて、見捨てたじゃないですか?お姉さんが虐められていた時、温井二若様は何もしなかったと聞いています。それに、最後にはお姉さんは寶石の劍をあなたに返しましたよね。今更、何のために彼女を探すんですか?」田中悠仁は無表情で言った。
山本綾音はこの言葉を聞いて、内心で「まずい」と思った。今の温井卿介は刺激してはいけない。
特に心春に関する話題は。田中悠仁がこんなことを言えば、きっと...