出発

「そうだな。仁藤心春はまだ彼の血が必要だから、血液バッグとしてでも、彼は生きていなければならない!」温井卿介は呟いた。「でも——」

彼は振り向き、再び田中悠仁に目を向けた。「もし仁藤心春に万が一のことがあれば、彼には生きている必要もないだろう!」

傍らにいた山本綾音はそれを聞いて、息を飲んだ。つまり、もし心春が本当に死んでしまったら、温井卿介は田中悠仁を道連れにするつもりなのだ!

しかし不思議なことに、秋山瑛真と田中悠仁はこの言葉を聞いても、表情一つ変えなかった。

秋山瑛真が田中悠仁を憎み、死んでほしいと思うのなら理解できる。しかし田中悠仁自身が少しも怖がらないなんて、まるで温井卿介が自分の命を奪うかもしれないことなど、どうでもいいかのようだった!

しかし、温井卿介はようやく剣を収め、血を見ることはなかった!

一行は船に乗り込んだ。秋山瑛真が乗船した時も、温井卿介は止めなかった。まるで二人の間で何らかの合意が成立していたかのようだった。

この船は温井グループのもので、当然最新の設備が整っていた。中小型の船ではあったが、これだけの人数を収容するには十分すぎるほどだった。

経験豊富な船員が操船を担当し、老漁師は道案内を務めた。

船が暗流域に入ると、極めてゆっくりと進み、時間が一分一分過ぎていくのが、はっきりと感じられた。

長い時間が経過し、老漁師は船首に立ち、前方にある自然に形成された崖の洞窟を指さして、皆に言った。「あそこです。あの日の海流と旋風は、最終的に人をこの場所に運んでくるんです!」

「本当に確かなのか?」秋山瑛真が尋ねた。

「確かです。最初は祖父から聞いた話で、暗流と旋風に巻き込まれた人はここに運ばれると。当時は半信半疑でしたが、30年前に暗流に巻き込まれた人の遺骨が、最後にここで発見されたんです。だから...間違いないはずです!」

遺骨...山本綾音はその言葉を聞いて、心臓が締め付けられるような思いがした。

そうだ、もし心春が本当にここに運ばれていたとしたら、事故から既に一ヶ月が経っている。彼女の遺骨は...この洞窟の中にあるのだろうか?

いや、そんなはずない、絶対にない!

しかし船が洞窟に近づくにつれ、山本綾音には船を降りる勇気が出なかった。中で親友の遺骨を見ることになるのではないかと恐れていたのだ!