彼女を失うことは、地獄である

山本綾音の体が後ろに倒れかけた時、温井朝岚が咄嗟に手を伸ばして彼女を引き留めたが、慣性の力で綾音は彼の胸に激しく衝突してしまった。

ドン!

二人は床に倒れ込んだ。

温井朝岚は背中を床につけて倒れ、山本綾音は彼の上に覆いかぶさるような形になった。

「大丈夫か?」温井朝岚は心配そうに尋ねた。

山本綾音は自分の下敷きになった男性を見つめた。彼の顔色は蒼白で、額には汗が滴り落ちていた。

「まずい、あなたの傷が...」山本綾音は慌てて温井朝岚の体から離れ、心配そうに彼を見つめた。先ほどの衝撃で、きっと彼の傷を圧迫してしまったに違いない。

「大丈夫だ、心配ない」温井朝岚は無理に言った。

この様子では、とても大丈夫とは思えない!

「傷口を見せてください。裂けていないか確認させて」山本綾音が言い、温井朝岚の服を開こうとした瞬間、背後から秋山瑛真の声が聞こえた。

「温井卿介、もういい加減にしろ!本当に刑務所に入りたいのか?」

「刑務所?」温井卿介は突然呟くように言った。「そうだ、刑務所には入れない...入れない、まだ彼女を見つけていない、まだ刑務所には入れない...」

彼は老漁師の手を掴んでいた手を緩め、老漁師は狼狽えながら地面に倒れ込み、激しく息を切らしていた。

秋山瑛真は複雑な表情で温井卿介を見つめた。これまで温井卿介のことを快く思っていなかったが、今の彼の様子を見ると、言い表せない感情が湧き上がってきた。

「なぜ最後に、彼女はこの劍をお前に返しながら、お前の手を掴もうとしなかったんだ?あの時お前は彼女のすぐ側にいたはずだ。彼女がお前を掴んでいれば、まだ生きる望みがあったはずなのに。あの時、お前と彼女の間で一体何があった?なぜ彼女はお前を掴まなかった?!」

これは彼がこの期間ずっと疑問に思っていたことだった。

人間の生存本能からすれば、心春は温井卿介を掴むはずだった。しかし、あの時彼女は手を放してしまった。

温井卿介の表情が一変した。

——「仁藤心春、死ぬな。まだ温井家の寶石の劍を返してもいないのに、死のうというのか?」

——「劍を渡せ、俺を掴め!」

あの時、彼女は確かに「はい」と言ったはずなのに、劍だけを渡して、彼を掴もうとはしなかった!

頭が...突然激しく痛み出した。