温井卿介は痛みで気を失い、温井家の部下たちはすぐに彼を船に運び込んだ。
そして温井朝岚の傷は、案の定、先ほどの圧迫で裂けてしまったが、幸い今回は医者も一緒に船に乗っていた。
そのため今、医者が温井朝岚の応急処置を行っていた。
山本綾音の目は涙で曇っていた。どうして、いつもこうなのだろう。いつも彼に傷を負わせてしまう!
「泣かないで、本当に大丈夫だから」温井朝岚の優しい声が彼女の耳元で響いた。
「私は...泣いてなんかいない」彼女は声を詰まらせたが、その涙は今にもあふれ出しそうだった。
「うん、うん、泣いてないね」温井朝岚は言った。「実は今日、心春が見つからなかったのも良かったかもしれない。少なくとも誰かに助けられた可能性が高いからね」
山本綾音は唇を噛んだ。そうね、今はそう考えるしかない、そうでもしないと慰めにならない。もし心春が本当に海底に沈んでしまったのなら...
彼女は船上の三人に視線を向けた。秋山瑛真は船首に立ち、何かを見つめていたが、その表情は読み取れなかった。
田中悠仁は船べりに寄りかかり、底知れぬ海水を見下ろしていた。その無表情な顔には、何か後悔の念が浮かんでいるようだった。
そして船室のソファーベッドに横たわる温井卿介は、まだ意識を失ったままで、眉間にしわを寄せ、時折「お姉さん」という言葉を漏らしていた。
これが心春の三人の弟たちなのだ!
もし心春が本当に戻って来なかったら、この三人の男たちはどうなってしまうのだろう?
きっと塩浜市は大混乱に陥るに違いない。
心春...一体どこにいるの?
————
岸に戻ると、秋山瑛真と田中悠仁は一言も発せずに立ち去り、温井卿介は温井家の部下たちによって病院へ運ばれた。
温井朝岚は山本綾音を見て言った。「送って行こうか」
山本綾音は言った。「待って、帰る前に話したいことがあるの」
「ん?」温井朝岚は彼女を見つめた。「何?」
「本当に私と一緒にいたいの?」彼女は真剣に尋ねた。
温井朝岚は表情を引き締めた。「うん」
「もしあなたの両親が反対したら?それに、前に起きたことで、私の両親も反対するかもしれない。そうなったら、きっと彼らの同意を得るのは難しいわ。直面する困難は、想像以上かもしれない。それでも一緒にいたい?」