さっき彼女が見たのは……心春だったの?
山本綾音の頭の中はほとんど真っ白になり、体は本能的な動きしか残っていなかった。
しかし、カフェを飛び出した時、さっき偶然目にしたあの姿を探すことができなかった!
心春?心春はどこ?
確かにさっき心春が道路のこちら側にいたはずなのに、もしかして向こう側かしら?
山本綾音が道路に飛び出そうとした瞬間、腕を強く引っ張られた。
「あなた、正気?道路を渡るなら、せめて信号を見なさいよ。一体何を追いかけてるの?」温井澄蓮の声が頭上から降り注いだ。
山本綾音はようやく我に返り、息を整えた。
さっきは見間違えたのかもしれない。あの人の隣には小さな女の子の手を引いていて、明らかに母娘のように見えた。
でも心春が、仮に本当に生きていたとしても、そんなに早く妊娠して出産できるはずがない。さっきの女の子は2、3歳くらいに見えたのに!
「ごめん、さっきは……見間違えたみたい」山本綾音はため息をつきながら言った。
その時、近くの角で、小さな女の子が周りを興味深そうに見回していた。「ここがママが昔住んでいた場所なんだね」
「そうよ、ママはこの街に住んでいたの。これからは展志ちゃんもママと一緒にここに住むのよ」仁藤心春は頭を下げ、優しい表情で女の子を見つめた。
「うん!展志ちゃん、ここ好き!展志ちゃんと同じ髪の色と目の色の人がいっぱいいるね。展志ちゃん、ここでたくさんお友達作りたい」小さな女の子が言った。
仁藤心春は微笑んで、「そうね、展志ちゃんはきっとたくさんお友達ができるわ!」
そう言いながら、娘を抱き上げ、娘の柔らかい頬にキスをして、かつて馴染みのあった通りを見つめた。
ついに……彼女はこの街に戻ってきた。
そして昔の人たちとも……いつか再会することになるだろう……
————
山本綾音は温井澄蓮と別れた後、スタジオに立ち寄った。以前、心春が失踪した後、彼女は携帯やカメラに保存していた友人の写真を全て印刷し、アルバムにまとめていた。
そして今日、心春に似た姿を見かけたことで、突然そのアルバムをもう一度見たくなった。
心春を待つ日々があまりに長くなって、心春の顔を忘れてしまうことが怖かったのだ!
アルバムをスタジオから持ち出した後、車を運転して自分のマンションに戻った。