『あなたが大好き』

仁藤心春は言葉を失った。

山本綾音は続けて言った。「とにかく、一度温井卿介にあなたを見られたら、どんなことが起こるか誰にも分からないわ。秋山瑛真の言う通り、まずは別の街に行って、塩浜市での万全の準備が整ってから戻ってくるのが良いと思うわ。もちろん、あなたたち二人が結婚してから戻ってくるのが一番いいけどね!」

「あ、あなた何を言ってるの!」仁藤心春の顔が赤くなった。

「どうして?間違ったこと言った?あなただって、瑛真さんはいいお父さんになれるって言ってたじゃない。展志ちゃんもお父さんが欲しがってるみたいだし、二人で外に行って、仲を深めてから戻ってくるのもいいと思うわ」山本綾音は冗談めかして言った。

仁藤心春の顔は一層赤くなった。

「じゃあ、展志ちゃんはもう寝室で寝てるから、私は帰るわ。二人でゆっくり話してね」山本綾音は自分のバッグを手に取って先に帰った。

仁藤心春は目の前の秋山瑛真を見て気まずそうに言った。「さっきの綾音の言葉、気にしないで。あの子はただ冗談が好きなだけだから」

「でも、僕が気にしたいとしたら?」秋山瑛真は低い声で言った。

「え?」彼女が驚いた瞬間、彼の大きな手が彼女の腰に回された。

「君は僕と結婚するつもりはないの?それとも、僕をそばに置いておくだけで、何の名分も与えるつもりはないの?」彼は不満げに言った。その様子は、大企業の社長というよりも、ドラマの中で名分を求める小さな嫁のようだった。

仁藤心春は目を瞬かせ、一時的に言葉に詰まった感じだった。

「僕たち、結婚するよね?」秋山瑛真は尋ねた。

彼の熱い期待に満ちた眼差しを見て、彼女は最後にうなずいた。「うん、私たち結婚する!」

彼の顔に喜びが溢れ、思わず頭を下げて彼女にキスしようとした。

しかし、彼の唇が彼女の唇に触れそうになった時、彼は止まった。目に躊躇いの色が浮かんだ。

彼女はまだ彼を愛していない。この瞬間の行動が、彼女にとって冒涜になるのではないかと恐れたのだ。

「ごめん、僕...今はまだその時じゃないって分かってる。君が嫌がることはしないから」彼は小声で説明し、距離を置こうとした。

彼の目に浮かぶ自制と自責、後悔を見て、仁藤心春は突然手を伸ばし、彼の首に腕を回した。