「ちょっとお手洗いに行ってきます」彼は普段より低い声で言った。体の横に垂れた手は強く拳を握りしめ、体の中で爆発しそうな感覚を抑えているのが明らかだった。
「はい」彼女は急いで答えた。それ以外に何を言えばいいのか分からなかった。
秋山瑛真は浴室に入り、服を脱ぎ、シャワーを開けた。冷たい水が彼の体を絶え間なく流れ落ちていく。
彼は下を向いて自分の体を見つめた。なんと...彼女への欲望が、こんなにも強かったのか。
先ほどの彼女からの自発的なキスは、同情であろうと慰めであろうと、どうでもよかった。
いつか、彼女は必ず彼を愛するようになる。絶対に!
……
翌日、秋山瑛真は約束通り仁藤心春と仁藤展志を遊園地に連れて行った。
小さな子は遊園地に来てとても興奮していた。特に秋山瑛真が首に乗せてパレードを見せてあげた時は、さらに興奮して口から「わーわー」と嬉しそうな声を上げていた。
娘の嬉しそうな顔を見て、仁藤心春はこの遊園地に来て本当に良かったと感じた。
ただ、彼女は既に瑛真と約束していた。帰ったら塩浜市を離れる準備をすることを。
これから一時的に住む街も既に決めていた。塩浜市からそれほど遠くない鹿島で、そこは気候も良く、医療や教育面でも優れており、彼女と展志ちゃんにはとても適していた。
塩浜市...戻ってきてまだ間もないのに、もう離れなければならないなんて!
遊園地の前を通り過ぎるパレードを見ながら、仁藤心春の脳裏に、なぜか温井卿介とここにいた時の光景が浮かんだ。
あの時、彼女と卿介は再会して、この遊園地にも来た。まるで子供の頃の別れを埋め合わせるかのように。
でも彼女は思いもしなかった。彼らの再会が、最後にはあんな結末を迎えることになるとは。
たぶん、彼女と卿介は会わないほうが良かったのかもしれない。
そして同じ時刻、同じくパレードを見ていた温井卿介の目は深く沈み、顔には少しの喜びも安らぎも見られなかった。
そのため、彼の傍らに立つ白井莉子は内心不安でたまらなかった。以前は二少様自身が遊園地に行きたいと言い出したのに、実際に来てみると、二少様の表情はますます冷たくなり、何を考えているのか全く読めなかった。
「あの...レストランで休憩しませんか」白井莉子が声をかけた。
「どうした、つまらないのか?」温井卿介は白井莉子を冷ややかに見た。