仁藤心春と秋山瑛真は、パレードを見た後、展志ちゃんをレストランに連れて行った。
仁藤心春は秋山瑛真に向かって、「先に注文してて。私は展志ちゃんをトイレに連れて行くわ」と言った。
「わかった」秋山瑛真は微笑みながら答え、手を繋いで遠ざかっていく親子の姿を見つめながら、胸の中が何かで満ち溢れているような気がした。
かつては辛いと思っていたことが、今では少しずつ素晴らしいものに変わっていた。
もう少し...時間さえあれば、温井卿介を恐れることはなくなるはずだ。そうすれば、きっと彼女をもっとよく守ることができる。
ただ...時間が必要なだけだ!
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仁藤心春は展志ちゃんとトイレを済ませ、洗面台で小さな子の手を洗わせていた。
「ママ、今日は楽しかった!」小さな子が言った。
「遊園地に来たからかしら?」仁藤心春は微笑んで言った。
「ママと秋山おじさまが一緒にいてくれたから、とっても嬉しかった。秋山おじさまはいつパパになってくれるの?」小さな子が尋ねた。
仁藤心春が口を開こうとした時、背後から突然声が聞こえた。「彼が君のパパになることは永遠にないよ」
仁藤心春の体が急に固まった。この声は...
足音が背後で響き、洗面台の鏡を通して、一つの影が彼女の視界に入ってきた。
杏色の瞳が大きく見開かれ、彼女は鏡の中の人物を呆然と見つめた。
温井卿介!
彼女は、もう二度と会うことはないと思っていた。たとえ将来偶然に出会うことがあっても、それは何年も先のことだと思っていた。しかし、こんな予期せぬ形で再会することになるとは。
「どうした?私を見て、そんなに驚いているのかい?」温井卿介の声が響いた。「まあ、私も君を見て、かなり驚いているけどね」
仁藤心春は急に振り向いた。「あなた...どうしてここに?ここは...女子トイレよ!」
「それがどうした?今ここには君と私とこの小僧以外、誰もいないじゃないか!」
「え?」彼女はその時気づいた。トイレは静まり返っていて、本来なら人の出入りがあるはずなのに、今は誰一人として出入りする人がいない。
「何をしたの?」仁藤心春は反射的に娘を背後に庇った。
「何もしていない。ただ私たちの再会を邪魔されたくなかっただけさ」彼は一歩一歩、彼女に近づいてきた。