仁藤心春は彼女の前にしゃがみ込んで、スリッパを履かせてくれる温井卿介を見つめながら、胸の中で何かが押しつぶされているような感覚を覚えた。
再会してから、彼は専制的で強引だったが、時には非常に慎重で、この相反する二つの態度が、彼女への接し方に見事に表れていた。
心春が浴室に入って身支度を整え、出てきた時、待ち構えていた卿介と正面でぶつかりそうになった。
「終わった?」と彼は尋ねた。
彼女は呆然と彼を見つめていると、彼が手を上げて指先で彼女の唇を撫でながら、「終わった?」と同じ言葉を繰り返した。
やっと彼が何を聞いているのか理解できた。
「は、はい」と彼女は少し落ち着かない様子で答えた。今は避けられないことがあるのを知っていた。
彼がゆっくりと身を屈めると、彼女は完全に彼の気配に包まれた。
彼の唇がゆっくりと彼女の唇に重なると、心春の体は硬直し、両側に垂れた手は無意識のうちに強く拳を握りしめた。
展志ちゃんに会えるなら、今はどうなってもいい。
彼の舌が彼女の歯を開かせ、彼女の舌に絡みついた。
彼女はこのキスを従順に受け入れ、抵抗も抗うこともなかった。
彼女の協力的な態度のせいか、このキスは特に情熱的になり、彼は彼女の口の中で絶え間なく絡み合い、ついに彼女の唾液が口角からこぼれ落ちた。
どれくらい時間が経ったのか分からないが、心春は唇が完全に痺れたように感じた頃、やっと卿介はキスを終えた。
しかし彼の唇は、まだ未練がましく彼女の口角にキスを続け、溢れ出た銀色の糸を舐めとっていた。
心春は顔を真っ赤にして、顔をそむけようとして「やめて…」と言った。
しかし彼は指で彼女の顎を押さえ、顔をそむけさせなかった。「甘いね」と低い声で囁き、彼は一つ一つ丁寧に彼女の口角の銀糸を舐め取った。「お姉さんは甘いね」
心春は顔が燃えるように熱くなるのを感じた。この男は、どうしてこんなことを当たり前のようにできるのだろう。
「こういうこと、あなたにとっては普通かもしれないけど、私にとっては…慣れないから、だから…」
しかし彼女の言葉は途中で遮られた。「今は慣れていなくても、これからお姉さんは慣れていくことになる。これを一度だけにするつもりはないし、それに…」