「彼は仁藤心春のことが大好きだからよ」と温井朝岚は言った。この三年間、温井家の人間として、他の誰よりも温井卿介の仁藤心春への愛情をよく知っていた。
彼は温井卿介が必死に仁藤心春を探し続けていることを知っていた。
また、温井卿介が深夜に寶石の劍を持って温井家の邸宅をさまよう姿も目にしていた。
さらに温井家の墓地で、卿介は寶石の劍を手に、彼にこう言ったことがあった。「兄さん、もしいつか山本綾音がこの世界から消えてしまったら、どうする?」
「分からない。ただ、彼女を失うことはできないということだけは分かっている」それが彼の答えだった。
「そうだね、失えないんだ。失えない人ほど、一度失ってしまえば生きていけなくなるんだろうね」その時の卿介の目は、虚ろで寂しげだった。「今やっと父が死んだ時の気持ちが分かった。『愛』という感情は、本当に自分ではコントロールできないものなんだね。もしいつか私が死んでしまっても、兄さんはあまり不思議に思わないでほしい」