号泣

「彼は仁藤心春のことが大好きだからよ」と温井朝岚は言った。この三年間、温井家の人間として、他の誰よりも温井卿介の仁藤心春への愛情をよく知っていた。

彼は温井卿介が必死に仁藤心春を探し続けていることを知っていた。

また、温井卿介が深夜に寶石の劍を持って温井家の邸宅をさまよう姿も目にしていた。

さらに温井家の墓地で、卿介は寶石の劍を手に、彼にこう言ったことがあった。「兄さん、もしいつか山本綾音がこの世界から消えてしまったら、どうする?」

「分からない。ただ、彼女を失うことはできないということだけは分かっている」それが彼の答えだった。

「そうだね、失えないんだ。失えない人ほど、一度失ってしまえば生きていけなくなるんだろうね」その時の卿介の目は、虚ろで寂しげだった。「今やっと父が死んだ時の気持ちが分かった。『愛』という感情は、本当に自分ではコントロールできないものなんだね。もしいつか私が死んでしまっても、兄さんはあまり不思議に思わないでほしい」

その時、彼は悟った。仁藤心春が見つからなければ、卿介は必ず叔父と同じ選択をするだろうと!

「卿介は心春を自分の命より大切にしているんだ」と温井朝岚は言った。

「本当に?」と山本綾音は疑わしげに尋ねた。

「間違いない!」と温井朝岚は言った。「もし卿介が本当に心春を傷つけたとしたら、彼自身がもっと深く傷つくことになる」

山本綾音は唇を噛んで、黙り込んだ。

「心春を卿介から逃がすのを手伝いたいの?」と温井朝岚は尋ねた。

山本綾音は苦笑した。温井卿介が先ほど山本家の人々を人質に取ると脅した後では、たとえ彼女が心春を助けたいと思っても、心春は拒むだろう!

「私は心春が温井卿介の脅しだけで、このまま不本意な人生を送ってほしくないの。心春は前半生をあまりにも苦しく過ごしてきた。やっと一度の危機を乗り越えて生き延びたんだから、後半生は、少しは幸せに過ごせるべきじゃない?」山本綾音の声は思わず詰まってしまった。

「じゃあ、私が手伝おう」温井朝岚は真剣な表情で言った。

山本綾音は温井朝岚を見つめた。「バカね、あなたはいつもそう。何でも私を助けようとする。でも、私を助けた結果がどうなるか考えたことある?」

温井朝岚は優しく微笑んだ。「僕は君が幸せなのを見たいだけだよ」

彼にとって、それが最も大切なことだった。