小さな子供がいたため、山本綾音はその場で言いたいことを言えずにいた。
温井朝岚は山本綾音の躊躇を察し、自ら前に進み出て、山本綾音が抱いている展志ちゃんに向かって言った。「こんにちは、僕は綾音おばさんの彼氏だよ。温井おじさんって呼んでくれていいよ」
「温井おじさん?」小さな子は不思議そうに目を瞬かせて、「どうして悪いおじさんと同じ温井おじさんなの?あなたも悪い人なの?」
山本綾音はこの言葉を聞いて内心喜んだ。よかった、温井卿介がたくさんのおもちゃをあげても、まだ子供の心を買えていないようだ!
「僕は...えっと、あのおじさんの従兄だよ。間違えないように朝岚おじさんって呼んでくれてもいいよ」と温井朝岚は言った。
小さな子は何か考えているようで、しばらくして山本綾音の方を向いて聞いた。「彼氏ってなに?」
山本綾音は答えた。「将来綾音おばさんと結婚する人のことよ。これからね、朝岚おじさんは私の夫になるの」
「じゃあ、将来綾音おばさんが赤ちゃんを産んだら、その子はこの人のことをパパって呼ぶの?」と小さな子は尋ねた。
「そうよ」と山本綾音は答えた。
小さな子は眉をひそめた。「綾音おばさん、別の彼氏にした方がいいよ。この人は悪いおじさんのお兄さんだから、悪い人だよ」
山本綾音は思わず手が滑り、小さな子を抱きそこねそうになった。
仁藤心春は慌てて「申し訳ありません。子供は何も分かっていなくて」と言った。
「大丈夫ですよ」温井朝岚は優しく笑って言った。「それなら、綾音おばさんのために僕のことをよく観察して、本当に悪い人かどうか確かめてみない?」
「観察?」小さな子はまた新しい言葉を聞いて、「観察ってなに?」
「僕と一緒に遊んで、遊びながら僕が悪い人かどうか見てみるってことだよ」と温井朝岚は説明した。
小さな子は目を輝かせ、これはいい考えだと思い、温井朝岚と一緒に遊ぶことを自ら申し出た。
温井朝岚は山本綾音から小さな子を受け取り、山本綾音に「あなたたちはゆっくり話して。僕は展志ちゃんに観察してもらってきます」と言った。
山本綾音はそこでようやく気付いた。温井朝岚は自分に心春とゆっくり話せる時間を作ってくれたのだ。
温井朝岚は温井卿介の方を見て「子供と遊ばせてもらって構いませんか」と聞いた。