「はい」スタッフは応じて、仁藤心春を隣の部屋のドレスエリアへ案内した。
一方、温井卿介は休憩エリアのソファに座り、マネージャーから渡された冊子を眺めていた。
仁藤心春はスタッフについてドレスエリアに来ると、所狭しと並ぶドレスを目にした。価格は分からないものの、その仕立ての良さや、施されている宝石の数々を見れば、当然かなりの高額だろうと察せられた。
三日後に温井卿介と参加する宴会に対して、彼女には何の期待もなく、当然ドレスを選ぶ気も起きなかった。
そこで心春は適当にドレスを見回し、シンプルで控えめなドレスを一着選んだ。「これにします」
「このドレスはお嬢様の雰囲気によく合いますね。他のもご覧になってみては…」
「結構です。これで大丈夫です」心春は相手の言葉を遮った。
この時の彼女は、ただドレス選びを早く終わらせたかっただけだった。
「では、こちらへどうぞ」スタッフは心春を試着室へ案内し、ドレスの着付けを手伝い、さらに簡単なヘアメイクと控えめな化粧を施した。
全てが整い、鏡の中の自分を見た心春は、少し見慣れない気がした。
今の彼女は、まるで精巧な人形のようで、確かに美しいが、自分らしくないように感じた。
「どうしました?この姿が気に入らないのですか?」突然、背後から声が聞こえ、心春は驚いた。鏡に映る温井卿介の姿に気付いたのはその時だった。
いつの間に彼女の後ろに来ていたのだろう?
「いいえ、ただ…」彼女は少し躊躇してから言った。「合わせた靴のヒールが少し高すぎるみたいで、足が少し痛くなりそうです」
この言葉は、半分は本当だった。結局、彼女は海外で過ごした数年間、ほとんどスニーカーばかり履いていて、革靴を履くことはめったになく、履いても平底か低めのヒールばかりだった。
店のスタッフが先ほどドレスに合わせたのは7センチヒールの靴で、当然足への負担は大きかった。
「そうですか?見せてください」温井卿介が言った。
心春は驚いた。見る?どうやって見るの?今ドレスの裾をまくり上げて、靴全体を見せるということ?
考えている間に、突然体が温井卿介に抱き上げられた。
「あっ!」心春は驚いた。長いドレスを着ているのに、彼はそのまま抱き上げてしまったのだ。
周りの人々は、この光景を驚きの表情で見つめていた。