仁藤心春が振り向くと、豪華な暗赤色のドレスを着た温井澄蓮が彼女の後ろ近くにいるのが見えた。
また一人、昔からの知り合いだ。
そういえば、塩浜市に戻ってきてから、これが温井澄蓮と初めて会う機会だった。
三年前と比べて、今の温井澄蓮はより一層優雅な気品を身につけ、かつての鋭さも随分と収まっているようだった。
「久しぶりね」と心春は口を開いた。
「今日、二兄さんがあなたをこのパーティーに連れてきたことで、明日にはこの界隈の人々は皆、二兄さんが探していた人が見つかったことを知るでしょうね。おめでとう、生きていて」と温井澄蓮は言った。
心春は微笑んだ。確かに、自分が生きていることは、おめでたいことだった。
「それで、これからどうするつもり?」と温井澄蓮は尋ねた。
この質問は山本綾音も彼女にしたことがあった。そして彼女の答えは今でも以前と同じだった。「特に計画はないわ。今はこのままでいいの。私は今、娘をちゃんと育てることだけを考えているの。それ以外のことは、深く考えていないわ」