彼の死を望まない

仁藤心春はぼんやりと目の前の男を見つめていた。

かつて、温井おじさんの死は彼女が目の当たりにしたものだった。彼女は海に飛び込み、必死に温井おじさんを救おうとしたが、力及ばなかった。

あの時、彼女は初めて身近な人が目の前で死ぬのを本当に見た。あの感覚を、彼女はもう二度と経験したくなかった。

そして今、彼は彼女に尋ねている。彼の死を望むのか、それとも生きていることを望むのかと。

彼女は当然、彼に死んでほしいとは思わない。たとえかつて、彼の欺きや弄びに憎しみを抱き、二度と会わないと思っていたとしても、彼の死を望んだことはなかった。

今、彼は彼女に告げているのだろうか。もし彼女が彼の母親が父親を去ったように彼を去るなら、彼も死ぬのだと。

つまり、彼は自分と彼女を縛り付けようとしているのだ。