「温……温井会長、どうしてここに?!」実験棟の責任者は額に汗を浮かべながら駆けつけた。彼の後ろには、ここの上層部の人間たちが続いていた。
温井卿介と仁藤心春は振り向いた。
「ちょうど暇だったから、見に来ただけだ」温井卿介は淡々と言い、それから仁藤心春に向かって尋ねた。「君の実験室はどこだ?」
「9階です」仁藤心春は答えた。
「じゃあ、まず君の実験室に行こう」温井卿介は言い、仁藤心春と共にエレベーターに向かって歩き続けた。そしてエレベーターの前に着くと、温井卿介は自らエレベーターのボタンを押した。
これに後ろについてきた一同は目を丸くした。
会長が自ら……エレベーターのボタンを押すなんて!
確かに、責任者や上層部の人間たちは、仁藤心春についてある程度知っていた。彼女が会長が3年間探し続けた人物であることを知っていた。ただ、当初は渡辺海辰秘書がこの仁藤さんを実験棟に連れてきて、仁藤さんは実験室を一つだけ要求し、その後は毎回実験室に来ては、実験室に閉じこもって実験をするだけだったので、皆も次第に彼女のことを気にしなくなっていた。