第21章 挑発

梁川千瑠は霧島冬真が黙っているのを見て、夏目星澄のことをもう話題にしなかった。

その代わりに、テーブルの上にある美しい宝石箱に目を向けた。

「わぁ、素敵な箱ね。このブランドのジュエリーはフランスでしか売っていなくて、国内では手に入らないって聞いたわ」

梁川千瑠は話しながら宝石箱を開けた。

中には非常に美しく高価なカラーダイヤモンドのブレスレットが入っていた。

梁川千瑠は一目で気に入り、すぐに手首に着けてみた。「冬真さん、このブレスレットとても素敵ね。大好き。私へのプレゼント?」

霧島冬真の鋭い瞳が少し沈んだ。「違う。これは星澄に買ったものだ。気に入ったなら、別のを買って贈るよ」

梁川千瑠は夏目星澄へのプレゼントだと聞いて、より一層欲しくなった。そこで彼女は霧島冬真に甘えるように言った。「でも冬真さん、私はこれが欲しいの。これを私にくれて、星澄には別のを買ってあげたら?」

霧島冬真は以前のように妥協せず、冷たく断った。「ダメだ。星澄の名前が刻まれている。君には似合わない。大人しく戻しなさい」

梁川千瑠は霧島冬真を怒らせたくなかったので、仕方なくブレスレットを戻した。「わかったわ。でも約束してね、新しいのを買ってくれるって」

霧島冬真は普段から気前が良いので、同じような価値のブレスレットをもらえれば、今回の訪問も無駄ではなかった。

梁川千瑠は夏目星澄がいない間に、一生懸命自分をアピールした。

四年前に霧島冬真の世話ができなかった後悔を取り戻そうとした。

しかし彼女は最も簡単な水を注ぐことさえ上手くできなかった。

熱すぎたり、冷たすぎたり。

このような世話に霧島冬真は少し耐えられなくなった。「もういい、千瑠。気持ちは分かった。帰りなさい」

「ごめんなさい、冬真さん。わざとじゃないの。追い出さないで」梁川千瑠は可哀想そうに霧島冬真を見つめた。

彼女はもともと何不自由なく育った令嬢で、人の世話など分かるはずもなく、ただ霧島冬真の機嫌を取ろうとしただけだった。

霧島冬真は強い言葉で彼女を傷つけたくなかったので、さらに我慢して説明した。「追い出すわけじゃない。これから会社に戻らないといけないんだ」