第51章 一人が善玉で一人が悪玉

夏目利道の手は宙に浮いたまま、叩くこともできず、叩かないこともできなかった。

岡田麗奈はそれを見て、すぐに前に出て夏目利道を後ろに押しやった。「何も話し合いで解決できるのに、なぜ子供に手を上げようとするの?」

そして夏目星澄の前で取り入るように言った。「星澄、お父さんのことは気にしないで。あの人はそういう性格なの。本当にあなたを叩くわけないでしょう。」

夏目星澄は嘲笑うように笑った。

毎回殴られる度に、このパターン。一人が優しく、もう一人が厳しく演じる。

小さい頃は分からなかった。母親が本当に自分を愛していると思っていた。

後になって気付いた。それは岡田麗奈の演技に過ぎなかった。

母性愛で自分を縛り付け、この家のためにもっと尽くさせようとしていたのだ。

夏目星澄はその偽善的な態度を見るのも嫌になり、単刀直入に聞いた。「もういい加減演技はやめて。今回はいくら必要なの?」

岡田麗奈は少し困ったように笑って、「まあ、この子ったら、最近どうしてこんなに気が短くなったの?お母さんが演技なんてするわけないでしょう。お母さんは本当にあなたのことを心配しているのよ。あなたと旦那さんの間に問題はないの?」

夏目星澄は可笑しくなった。今度は彼女と霧島冬真の関係まで心配し始めるとは。

前回の誕生日の時、彼らはすべてを見ていたはずなのに、まだ何を聞く必要があるというのか!

夏目星澄は冷たく彼らを一瞥して、「言うなら言って。言わないなら帰るわ。」

岡田麗奈はやっと夏目星澄に会えたのに、このまま帰らせるわけにはいかなかった。「そう急いで帰らないで。もうここまで話が出たんだから、お母さんももう隠さないわ。弟が素晴らしい彼女と付き合っているの。とても優秀で、家柄もいいの。」

「最近二人は結婚の話をしていて、他に要求はないんだけど、ただ城南の別荘が欲しいって。お姉ちゃんとして、弟の力になってあげるべきじゃないかしら?」

夏目星澄は彼らの目的を大体察していた。眉を上げ、すぐに冷笑を浮かべた。「夏目晴貴の結婚は良いことね。姉として弟の力になるべきよね。」