朝食の後、霧島冬真は会社へ出勤し、水野文香は友人に会いに行った。
夏目星澄だけが今日は休みだった。
しかし彼女も暇ではなく、キッチンで少し忙しく過ごした後、作ったお菓子を持って病院にいる祖母を見舞いに行った。
祖母が病気になってもう半月近く、彼女はとても心配していた。
医者に聞いても、老人特有の病気だから養生すれば良くなると言うだけだった。
病室に着くと、登坂萌乃は本を読んでいた。
夏目星澄は笑顔で近づき、「おばあちゃん、お菓子を作ってきたわ。食べてみて」と言った。
登坂萌乃は夏目星澄が来たのを見て、本を脇に置き、嬉しそうに言った。「ありがとう。ちょうどお腹が空いてきたところよ。あなたは本当におばあちゃんの大切な孫だわ」
夏目星澄は登坂萌乃が美味しそうに食べる様子を見て、自分も嬉しくなった。
彼女は普通の家庭の出身で、この家族のためにできることは本当に少なかった。こういった小さなことで気遣うことしかできなかった。
夏目星澄は傍らのリンゴの皮を剥き始めた。
皮を剥きながら、朝の霧島峰志の不満げな態度のことを考えていた。
今はまだ言葉だけだ。
きっとそう遠くないうちに追い出されることになるだろう...
「あっ!」夏目星澄は不注意で指を切ってしまった。
登坂萌乃はすぐに気付いて心配そうに言った。「星澄、大丈夫?ひどくない?おばあちゃんに見せて」
指から少し血が出ただけで、夏目星澄はすぐにティッシュで止血した。
「大丈夫よ、おばあちゃん。小さな傷だから、後でバンドエイドを貼れば良いの」
しかし登坂萌乃の目には、彼女の傷は指だけではないように見えた。
そこで心配そうな声で尋ねた。「星澄、どうしたの?何か悩み事があるみたいだけど。冬真があなたをいじめているの?」
夏目星澄は無理に笑って、「いいえ、彼は優しいわ」と答えた。
しかし登坂萌乃から見ると、それは優しいとは思えない様子だった。
「星澄、もし冬真が本当にあなたをいじめているなら、必ず私に言ってね。決して自分を苦しめないでほしいの」
「はい、わかってます、おばあちゃん。安心して、私は自分を苦しめたりしませんから」
もう少し祖母と話をして、疲れて休む必要があると分かった時、夏目星澄は名残惜しく別れを告げた。