梁川千瑠はケーキを受け取り、涙を笑顔に変えて「ありがとう、霧島おじさん」と言った。
彼女は心の中でよく分かっていた。水野文香の支持が得られないなら、霧島峰志にしがみつくしかない。
結局、梁川家と霧島家は深い関係があるのだから。
この関係さえあれば、夏目星澄より百倍も優位に立てる。
霧島峰志は頷き、また来客たちに社交辞令を述べた。
皆がグラスを上げ、水野文香の誕生日を祝った。
これで誕生日パーティーは一段落した。
梁川千瑠は切り分けられたケーキを持って真っ直ぐに霧島冬真の前に行き、可愛らしく艶のある顔に少し恥じらいを浮かべて「冬真さん、このケーキ大きすぎて私一人では食べきれないわ。捨てるのはもったいないから、少し食べてくれない?」
「だめよ」
この言葉は霧島冬真ではなく、彼女の後ろに立っていた夏目星澄が言ったものだった。
彼女は霧島冬真の代わりに梁川千瑠を断った。
これまで、梁川千瑠が霧島冬真と親密になろうとしても無視できたが、水野文香が今日彼女の立場を公にした。
無数の目が彼女の失態を待ち構えている。
梁川千瑠がこのようなことをするのは、明らかに彼女の顔に泥を塗るようなものだ。
そんなことは絶対に許せない。
梁川千瑠は少し取り乱した様子だった。
夏目星澄がまたしても邪魔をするなんて!
「星澄、冬真さんはまだ何も言ってないのに、あなたが勝手に断るのは良くないんじゃない?」
梁川千瑠は霧島冬真の性格をよく知っていた。他人に物事を決められるのを最も嫌うということを。
夏目星澄はこの時、もう霧島冬真の意思など気にしていられなかった。「何が良いも悪いもないわ。霧島冬真は私の夫なの。ケーキくらいの些細なことなら、私に決める権利があるわ」
霧島冬真は夏目星澄が自分のことを夫と呼ぶのを聞いて、思わず眉を上げ、心にも何か異変を感じた。
しかし梁川千瑠はまだ諦めきれない様子で「冬真さん、私を助けてくれますよね?」
前回ゴールデンパレスカジノで、彼は私のためにマンゴーの皮を剥いてくれた。今回も同じケーキを食べることは、きっと大丈夫なはず。
夏目星澄も霧島冬真を見つめ、彼の決断を待っていた。
霧島冬真は少し手を上げて梁川千瑠のケーキに伸ばした。
梁川千瑠はすぐに得意げな表情を浮かべた。