緒方諒真も関わりたくなかったが、冬真さんが一人で座って憂さ晴らしに酒を飲んでいるのを見ると、夏目星澄に対して何の感情もないようには見えなかった。
そこで彼はグラスを持って霧島冬真の隣に座り、乾杯をして、「冬真さん、真澄さんから離婚したって聞きましたけど、喜ぶべきじゃないんですか?なんだか未練がありそうな感じですけど」
霧島冬真はグラスを持つ手を一瞬止め、嘲笑うように言った。「そんなはずがない」
緒方諒真は目の前のウォッカのボトルを揺らし、「じゃあ、これは何なんですか?一人で半分以上飲んじゃって、命知らずですか?」
霧島冬真は目を細めて、「ただ突然、彼女に一杯食わされた気がしただけだ」
「彼女にそんな能力があるんですか?」緒方諒真は少し驚いた様子で、もし彼女にそんな力があるなら、離婚を拒否するはずだろう。
誰もが知っている通り、霧島冬真は現在最年少の全国長者だ。
その資産は計り知れない。
離婚さえしなければ、彼女は何でも手に入れられ、思いのままに振る舞えたはずだ。
子供もいないのに離婚すれば、せいぜい金銭的な補償を得られるだけで、その後の人生は何も残らない。
「彼女の能力なんてとんでもないものさ」霧島冬真は冷笑した。
この数日間、冷静に考え直してみると。
結婚から離婚まで、まるで全て彼女の主導だったような気がする。
最初は薬を使って結婚を強要し、今度は離婚したいと言えば離婚できる、一切の余地も与えない。
まるで彼のことなど最初から眼中になかったかのように。
緒方諒真は霧島冬真の言葉の意味がよく分からず、躊躇いながら尋ねた。「じゃあ、今は離婚したことを後悔してるんですか?それとも復讐したいんですか?」
霧島冬真は嘲笑うように言った。「後悔なんてするわけがない」
緒方諒真は一口酒を飲み、天井を見上げながら突然言った。「じゃあ復讐したいんですね。何か方法を考えて彼女を追い返して、復縁した後で、今度はあなたから離婚を切り出して振るとか?」
「でもそれじゃあちょっと非道すぎますよね。人の心を殺すようなものです」
「復縁」という言葉を聞いた霧島冬真は、思わずのどぼとけを動かし、手の中のグラスを強く握りしめた。突然、この方法は実行可能だと感じた。
彼は鼻で軽く「ふん」と言った。「自業自得だ」