一時間後、龍城レジデンスにて。
ドアベルが鳴った。
焦りながら待っていた家政婦は、ほとんど走るようにしてドアを開けに行った。
この一時間は本当に息が詰まるような時間だった。霧島冬真の顔は鍋底のように真っ黒で、彼女は大きな息すら吐けなかった。
ようやく救世主が来た。
しかし、ドアを開けて来訪者を見た途端、浮かべかけた笑顔は凍りついた。
霧島冬真もちょうどリビングから出てきたところで、家政婦が黄色い制服を着て書類バッグを持った若い男性を案内してくるのを目にした。
彼の顔色は一瞬にして土気色になった。
若い男性も霧島冬真から放たれる冷気に怯え、緊張して手の書類バッグを握り直した。「あの...霧島さんでしょうか?これは夏目さんが届けるようにと依頼された物です。お客様の携帯に確認コードが届いているはずですが、確認させていただけますでしょうか?」
霧島冬真は無表情で目の前の男を見つめ、薄い唇を引き締め、怒りを抑えながらスマートフォンを取り出した。
男性は確認コードを受け取ると、荷物を家政婦に渡し、すぐに逃げるように立ち去った。
怖すぎる、本当に怖すぎた。
まるで閻魔様に会ったような感覚で、今でも背筋が寒くなる。
今後このような遠距離の配達は、いくら報酬が良くても二度と受けまいと思った。
同時刻、夏目星澄の元にも配達完了の通知が届いた。
彼女も心の中でほっと胸をなでおろした。
しばらくすると、突然WeChat(微信)で複数のメッセージが立て続けに届いた。
夏目星澄が確認すると、夏目家の家族グループチャットからだった。
その中には夏目利道が夏目晴貴の婚約を発表する内容と、新居の写真が含まれていた。
夏目星澄が写真を開いてみると、最近分譲が始まったばかりのオーシャンビュー・ヴィラだった。
一軒で軽く一千万円を超える物件だ。
頭金だけでも数百万円はかかる。
夏目利道にそんな大金を夏目晴貴に与える余裕があるはずがない。
すぐにグループには新しいベンツの写真も投稿され、その中には夏目晴貴と彼の婚約者が座っていた。
しかし夏目利道は先日霧島冬真のところで大騒ぎを起こしたばかりなのに、どうしてこんな短期間でこれほどの金額を用意できたのか。
おかしい、とてもおかしい!