林田瑶子は梁川千瑠が理由もなく現れるはずがないと思った。
彼女は、この策略家の女が夏目星澄に何か悪意のある行為をするのではないかと心配していた。
そこで外に出て、こっそりと梁川千瑠の目的を探りに行った。
夏目星澄はまだ歌の準備をしていた。
林田瑶子が突然息を切らして外から走って戻ってきた。
夏目星澄は少し驚いて彼女を見た。「どこに行っていたの?」
「梁川千瑠のあの小娘が何をしに来たのか探りに行ってきたの。」
「彼女は何をしに来たの?」
「アシスタントゲストとして来たみたい。」
「アシスタントゲスト?」
夏目星澄は梁川千瑠が音楽の面で特別な才能があるとは聞いたことがなかった。
林田瑶子は怒りを抑えきれない様子で言った。「そう、柚木瑛瑛を手伝いに来たの。同じ事務所だから。」
「手伝いと言っても、実際は番組が人気になったから便乗しに来ただけよ。それに、この競演の後、柚木瑛瑛はポジションを梁川千瑠に譲るって聞いたわ。」
夏目星澄は目を大きく見開き、信じられない様子で「そんなことができるの?柚木瑛瑛にとってあまりにも不公平じゃない?彼女はずっと良い成績を残してきたのに。」
しかし林田瑶子は表情を重くして言った。「それは彼らの事務所の問題だから、私たちがどうこう言える立場じゃないわ。でも梁川千瑠が突然介入してきたってことは、気をつけないといけないわ。あの女は策略家だから、勝つためには手段を選ばないはず。」
夏目星澄は思考が沈んだ。「梁川千瑠がどんな手段を使おうと、歌は偽れないわ。私を傷つけることはできないはず。」
林田瑶子は首を振った。「用心に越したことはないわ。あなたが競演している間、私がずっと付き添って、彼女を監視しているから。」
競演が正式に始まる前。
全ての歌手が同じ控室でリハーサルを待っていた。
梁川千瑠は意図的に最後に入場し、自分がどれだけ重要な人物であるかを誇示した。
そして彼女の梁川グループのお嬢様という身分は、人脈作りに大いに役立った。
何人かの歌手が積極的に彼女に挨拶をした。
夏目星澄だけが脇に座り、彼女を一瞥もしなかった。
その時外では、番組のプロデューサーが恭しく、スーツを着た気品のある二人の男性に現場を案内していた。
その一人は緒方諒真で、この番組のスポンサーだった。