夏目星澄は手の中の銀行カードを見つめ、また困惑した。
なぜなら、彼女は霧島雪栄の家がどこにあるのか全く知らなかったからだ。
返したくても返す場所がない。
霧島冬真のところに持って行って、カードを渡してもらおうかと迷っているときだった。
携帯電話が鳴った。
見ると霧島お婆様の電話番号だった。
夏目星澄はすぐに電話に出た。「もしもし、お婆様...」
しかし言葉を発した途端に後悔した。
結局、彼女は霧島冬真と離婚したのだから、もうお婆様と呼ぶ資格はないはずだ。
そこで急いで言い直した。「申し訳ありません、霧島お婆様。」
登坂萌乃は夏目星澄が自分をお婆様と呼んでくれて嬉しかったが、突然言い方を変えられて少し寂しく感じた。「星澄、お婆様なんて呼ばないで、お婆様って呼んでくれたら私は嬉しいわ。」
「でも...お婆様と呼ぶのは相応しくないと思います...」
「相応しいも相応しくないもないわ。そう呼びなさい。お婆様は聞いていて嬉しいの。」
登坂萌乃は心から夏目星澄のことが好きだった。実は当時、彼女が霧島冬真と結婚していなくても、養孫女にしたいと思っていたほどだ。
まして夏目星澄はこの数年間、彼女と霧島家のことを心を込めて世話をしてくれた。それは彼女の目に焼き付いていた。
たとえ二人が本当に別れたとしても。
彼女は夏目星澄のことが惜しくて、時々自分に会いに来てほしいと思っていた。
夏目星澄も年配の方を不快にさせたくなかったので、以前と同じように呼ぶことにした。「はい、分かりました、お婆様。」
今は二人だけの電話だし、他の人も知らないから、余計な噂も立たないだろう。
登坂萌乃は満足そうに微笑んだ。「いい子ね。今はどう?元気にしてる?」
夏目星澄は年長者に対して、良いことだけを報告するタイプだった。「お婆様、私のことは心配しないでください。とても元気にやっています。」
「それならよかった、よかった。冬真とは別れてしまったけど、お婆様はまだ以前のように、時間があったら私と一緒に過ごしてほしいの。たとえおしゃべりだけでもいいから。」
これまでの長い年月、夏目星澄だけが忍耐強く彼女の傍にいてくれた。
他の人は時間がないか、何か頼みごとがある時だけ、彼女と少し話をしようとするだけだった。
一方、夏目星澄はいつも静かに寄り添い、気遣ってくれた。