梁川千瑠は最近、どうしても霧島冬真と連絡が取れないことに気づいた。
母親の件で恨まれているのではないかと心配になり、霧島グループの社員に金を渡して、毎日冬真の行方を報告させていた。
ようやく今日、彼が一人で深夜まで残業していることを知った。
まさに温かい気持ちを伝え、愛を表現するのにぴったりのタイミングだった。
実は彼女は以前も何度か来たことがあったが、いつも警備員に止められていた。
今回は金で買収しようと考えていたのに、警備員は彼女を一目見るなり中に通してくれた。
今日は本当にいいタイミングで来たようだ!
梁川千瑠を通した警備員は新人で、彼女のことを知らなかった。
ただ社長秘書の指示通り、後で社長夫人が来たら止めずに直接通すようにと言われていただけだった。
だから可愛らしい顔立ちで、おしゃれな服装をし、エルメスのバッグを持った梁川千瑠を見たとき、自然と彼女が社長夫人だと思い込んでしまった。
しかししばらくすると、さらに美しい容姿だが、普通のTシャツとジャージ姿で、お弁当箱を持った女性が現れた。
警備員は一瞬戸惑った。なぜまた別の人が来たのか?
夏目星澄は大谷希真が全て手配してくれていると思い、そのまま入れると思っていたが、警備員に止められてしまった。「申し訳ありませんが、こちらの社員ではない方は入れません」
星澄は親切に説明した。「分かっています。でも食事を届けに来ただけです。社長秘書から話があったはずですが」
警備員は急に緊張し始めた。もしかして人違いをしたのではないかと。「では、あなたが社長夫人ですか?」
星澄はすぐに首を振った。「違います」
彼女は既に冬真と離婚しているので、当然彼との関係はないはずだった。
警備員はほっと胸をなでおろした。「では入れません」
星澄は警備員に融通を利かせてもらおうとした。「社長に食事を届けるだけです。すぐに戻ってきますが、ダメでしょうか?」
警備員は厳しい表情で言った。「できません。会社の規則で、関係者以外は社員の付き添いがない限り入れません」
星澄は仕方なくため息をついた。さすがに冬真に電話して迎えに来てもらうわけにはいかない……
大谷希真に電話して、警備員への指示が本当になかったのか確認しようかとも思ったが。