第276章 実家に戻る

霧島冬真は廊下の隅で丸二時間も隠れていた。

夏目星澄が追いかけてきて、彼女から離れるように迫られることを恐れていた。

しかし実際には、彼女の体調ではベッドから起き上がることもできない状態だった。

霧島冬真は今、ただ僥倖を期待しているだけだった。

彼は気持ちを整え、何事もなかったかのように、病室に戻った。

そして、テーブルの上の果物を手に取り、丁寧に皮をむいて切り分け、きれいな器に入れて夏目星澄に渡した。

以前はこれらすべて夏目星澄が彼のためにしていたことだった。

彼がどんなに遅くまで仕事をしていても、彼女はいつもコーヒーと果物を用意して、彼の好きなように食べさせていた。

今は彼がただそれを真似ているだけだった。

「果物を食べて、母さんが特別に買ってきてくれたんだ。」

夏目星澄は本当に呆れていた。霧島冬真は何事もなかったかのように振る舞えるが、彼女にはそれができなかった。

「霧島冬真...」

「君が何を言いたいのかわかっているけど、今はその話をしないでおこう。今の君の仕事は療養に専念することだ。体調が回復してから、私たち...私たちでまた話し合おう。」

実際、夏目星澄がいつ話を切り出しても、彼の答えは一つだけだった。それは同意しないということだ。

その後の数日間も、霧島冬真はそのように振る舞い続けた。

夏目星澄がその件について話を持ち出すたびに、彼は聞こえないふりをするか、話題を変えてしまった。

夏目星澄は何度か言及したが、もう言うのも面倒になった。

寝たふりをしている人を起こすことはできないからだ。

どうせ今は病院にいて、逃げ出すこともできない。だから体調が良くなってから、最後にもう一度彼と話し合おうと思った。

それでも話がまとまらなければ、もう話し合うのはやめにしよう。

彼を避けて暮らすだけだ。

一週間後、夏目星澄の体調はようやく退院できるまでに回復した。

ただし、まだしばらく自宅で静養する必要があり、外出できるようになるまでには時間がかかる。

夏目星澄は林田瑶子と約束して、退院の迎えに来てもらうことにしていた。

しかし林田瑶子が車に乗ったところで、会社から緊急の用件があると連絡が入り、すぐに戻る必要があった。