登坂萌乃は来るなり霧島冬真がいないことに気づき、何があったのか聞こうと思ったが、夏目星澄を見た瞬間にすべてを忘れてしまった。
今、霧島冬真が来て、彼女は思い出した。
霧島冬真は眉をひそめ、「会社で急な用事があって、ちょっと出かけていた」と言った。
梁川千瑠への復讐に行ったとは言えなかった。
「会社の用事が、星澄より大事なの?早く彼女の面倒を見てあげなさい。もう丸一日も何も食べていないのよ!」
何も食べていない?
それを聞いて、霧島冬真は急に心配になった。「どうして何も食べないの?まずかったの?何が食べたい?今すぐ買いに行かせるよ」
しかし夏目星澄は何も言わず、彼を見ようともしなかった。
登坂萌乃は夏目星澄のこの反応を見て、すぐに何かがおかしいと気づいた。
「星澄、また彼が何かしたの?おばあちゃんに言いなさい。叱ってあげるわ!」
夏目星澄は依然として黙ったままだった。
水野文香はため息をつきながら言った。「お母さん、しばらく星澄を一人にしてあげましょう。知りたいことがあれば、私が説明します」
彼女は、老婦人がここに残って色々と聞けば、この子がまた傷つくことを知っていた。すでにこんなに可哀想なのに、彼女を泣かせたくなかった。
登坂萌乃はそれを聞いて、ますます霧島冬真が何か悪いことをして、夏目星澄を傷つけたから、彼女が会いたがらないのだと確信した。
夏目星澄を煩わせないように、登坂萌乃は水野文香について話をしに出て行った。
霧島冬真は病室に立ったまま言いよどみ、結局一緒に出て行った。
廊下で、水野文香は夏目星澄のために憔悴し、疲れ果てた様子の霧島冬真を見て、胸が痛んだ。
「あまり心配しないで。星澄はわざと食べないわけじゃないわ。ただ心が辛すぎて食欲がないだけよ。私がよく説得してみるわ」
霧島冬真は頭を下げ、嗄れた声で言った。「全て私の責任です。もし梁川千瑠に対して一時的な慈悲を持たなかったら、彼女を救う時間を無駄にすることもなく、子供も...子供も...」
登坂萌乃は夏目星澄が誘拐され、爆発があり、水没したために子供を失ったことは知っていたが、霧島冬真が梁川千瑠のために救助を遅らせたとは思いもよらなかった。
夏目星澄が彼に会いたがらないのも無理はない。
これは全て自業自得だ!