梁川英夫の声は次第に大きくなっていったが、梁川千瑠は気にも留めなかった。
「お父さん、杞憂するのはやめてくれない?あの二人の誘拐犯は一人は死んで、もう一人は行方不明でしょう。警察だってあれだけ捜査したのに何も分からなかったんだから、安心してよ」
「安心だって?大谷東也こそが最も不安定な要素なんだ。あいつは死んでいないんだ、ただ行方不明なだけだ。もしいつか現れて、霧島冬真に見つかったら、私たちは逃げ場もないんだぞ!」
梁川英夫はいつか事実が露見することを恐れ、それで梁川千瑠を海外に送ろうと焦っていたのだ。
しかし彼女自身は全く心配していなかった。
「もういいわよ、お父さん。そんなに心配しないで。冬真さんには証拠がないから、私に何もできないわ。せいぜい脅かして、鬱憤を晴らすくらいよ。忘れないで、彼は私たち梁川家に命の恩があるのよ!」
「たとえ彼がこの恩を返したくないとしても、霧島お爺様がいるでしょう?あの方は義理堅い人だし、お爺様の戦友でもあるわ。亡くなったお爺様のためにも、きっと私たちを守ってくれるはず」
梁川英夫はまだ警戒を緩めることができなかった。「でもあの子も霧島家の子供だったんだぞ。あの家は血筋を何より大切にする。もし真相を知ったら、霧島お爺様でも私たちを守れないかもしれない!」
「母胎で死んだ赤ちゃんなんて、人間とも言えないわ。気にすることないじゃない。子供が欲しいなら、私が新しく産んであげればいいだけよ!」
子宮はないけれど、代理出産という手段がある。
霧島冬真の精子さえ手に入れば、子供を産むことができれば、霧島家の若奥様の座は彼女のものになる!
梁川英夫は彼女の言葉に大変驚いた。「冬真は今お前に死んでほしいと思っているのに、どうして子供を作るなんてことができるんだ?」
梁川千瑠は言った。「お父さん、覚えてる?あの時冬真さんが事故で昏睡状態になった時、霧島家の血筋が途絶えないように、精子を海外に保管したって」
「その精子を見つけて、体外受精すれば子供ができるでしょう。私が妊娠したら、たとえ真相が分かっても、私には何もできないはずよ!」