第274章 私があなたにチャンスを与えなかったとでも?

梁川英夫の声は次第に大きくなっていったが、梁川千瑠は気にも留めなかった。

「お父さん、杞憂するのはやめてくれない?あの二人の誘拐犯は一人は死んで、もう一人は行方不明でしょう。警察だってあれだけ捜査したのに何も分からなかったんだから、安心してよ」

「安心だって?大谷東也こそが最も不安定な要素なんだ。あいつは死んでいないんだ、ただ行方不明なだけだ。もしいつか現れて、霧島冬真に見つかったら、私たちは逃げ場もないんだぞ!」

梁川英夫はいつか事実が露見することを恐れ、それで梁川千瑠を海外に送ろうと焦っていたのだ。

しかし彼女自身は全く心配していなかった。

「もういいわよ、お父さん。そんなに心配しないで。冬真さんには証拠がないから、私に何もできないわ。せいぜい脅かして、鬱憤を晴らすくらいよ。忘れないで、彼は私たち梁川家に命の恩があるのよ!」