第296章 泥棒の盗みより泥棒の執着が怖い

夏目星澄は登坂萌乃の心中を察していた。

しかし、彼女は首を振って言った。「おばあさん、過去のことは過去のままにしましょう。お体を大切にしてください」

登坂萌乃は言いかけて止めた。「星澄、私の顔を立てて、もう一度...」

「お母さん!」水野文香が制止した。「もういいわ、お母さん。二人の気持ちは二人で解決させましょう。余計な口出しはしないで」

夏目星澄は感謝の眼差しで水野文香を見た。「水野おばさん、私はこれで失礼します。お体を大切にしてください」

帰り道で、林田瑶子は明らかに夏目星澄の様子がおかしいことに気付いた。

「星澄、どうしたの?」

夏目星澄は首を振った。「何でもないわ、ただちょっと疲れただけ」

梁川千瑠が有罪判決を受け、彼女は突然目標を失ったかのようだった。

何に対しても興味が持てなくなっていた。

林田瑶子は夏目星澄の手を取り、優しく数回叩いて慰めた。「この数日、あなた、よく眠れてないみたいね。家に帰ったら、ゆっくり休んで」

夏目星澄は頷いただけで、何も言わなかった。

三十分後、マンションの下に着いた。

車から降りる前に、夏目星澄は花井風真を見て、感謝の言葉を述べた。「風真さん、送ってくれてありがとう。この数日間、私のために色々と気を遣ってくれて大変だったでしょう。家でゆっくり休んでください。今度時間があったら、お食事でもご馳走させてください」

花井風真は夏目星澄が意図的に距離を置こうとしていることを理解し、無理強いはしなかった。「わかった。じゃあ、上まで送るのは遠慮しておくよ。バイバイ」

どうせ時間はたっぷりある、ゆっくりでいい、焦る必要はないと思った。

林田瑶子は花井風真が去るのを見送りながら、夏目星澄に言った。「星澄、花井さん、まだあなたを諦めきれてないみたいね...」

夏目星澄は困ったように言った。「変なこと言わないで。彼は友達として心配してくれているだけよ」

「単なる心配なら、まだいいけど、彼のあなたを見る目が明らかにおかしいわ。それに今日わざわざ法廷まで付き添ってきたのも、明らかに霧島冬真に見せつけるためでしょう」

「瑶子、考えすぎよ」

「私が考えすぎかどうかはどうでもいいわ。大事なのはあなたの気持ち。あなたと花井さんの間に本当に可能性はないの?」