第306章 私が彼女を連れて行く

霧島冬真は気にせず、女を追いかけることに公平なんてないと思った。

ましてや追いかけているのは妻なのだから。

しかし、花井風真も正人君子というわけではない。

当時、夏目星澄が自分の子を身ごもっていると知りながら、なお執着し続けた。

お互い様というところだ。

霧島冬真の表情が徐々に暗くなり、「もういい、言い訳を探すのはやめろ。星澄が私と離婚したからといって、お前と一緒になるとでも思っているのか」

「彼女の心の中に誰がいるのか、お前も私もよく分かっているはずだ!」

そう言うと、花井風真を無視して、すぐに星澄を抱き上げた。

夏目星澄は突然の浮遊感に、思わず目を見開いた。

そして見慣れた顔を見て、小さな声で呟いた。「霧島冬真?」

夏目星澄の声は小さかったが、酔っていたせいで、無意識に甘えた調子が混ざっていた。

これに、彼女を奪い返そうとしていた花井風真はその場で凍りついた。

あれだけのことがあったのに、夏目星澄の心にまだあの男がいるのだろうか?

霧島冬真は満足げに口角を上げ、高貴な顎を上げた。

まるで凱旋した将軍のように、夏目星澄を戦利品のごとく、花井風真の前から颯爽と立ち去った。

花井風真は胸が痛み、その場に立ち尽くしたまま、まるで足が釘付けにされたかのように、半歩も動けなかった。

全てを目撃した神田晓良は、まるで大きな「スキャンダル」を掴んだかのように。

呆然と見つめるばかりだった。

彼女は夏目星澄が魅力的な女性で、多くの追求者がいることは想像していた。

しかし、二人の男性が目の前で奪い合うのを見るのは初めてだった。

あまりにもスリリングだった!

しかし彼女は、林田瑶子から言い付かった使命を忘れてはいなかった。

霧島冬真を恐れていたにもかかわらず、急いで後を追った。

「ちょっと待って、ちょっと待って、星澄さんをどこへ連れて行くの?」

霧島冬真は足を止め、振り返って彼女を一瞥し、「星澄は私の愛する人だ。私がしっかり面倒を見る。安心して帰りなさい」

「だめです!林田社長から星澄さんをしっかり見守るように言われているんです。こんな風に連れて行かれたら、私、説明のしようがありません!」神田晓良は泣きそうになりながら叫んだ。