霧島冬真は一晩中二日酔いで、翌日の午後になってようやく会社に向かった。
大谷希真は霧島冬真を見かけると、深刻な表情で「社長、ニュースになっているようです」と告げた。
霧島冬真は眉をひそめ、「どんなニュース?」
彼はこれまで一度もインタビューを受けたことがないのに、どうして突然ニュースになるのだろう?
大谷希真はスマートフォンを差し出した。「スキャンダルです。昨夜、クラブで女性と一晩過ごし、最後にその女性を病院に運んだとか...」
霧島冬真はスマートフォンのニュース記事を一瞥し、思わず苦笑した。「根も葉もないデタラメを。私のことまで勝手に書きやがって、この記事を出したサイトは死にたいらしいな」
「直ちに法務部に渡して名誉毀損で訴えろ。それと、そのクラブのオーナーに連絡を取って昨夜の防犯カメラの映像を入手し、真相を公表しろ」
大谷希真は頷いた。「承知いたしました、社長。すぐに手配いたします」
彼は社長がそんな軽薄な男ではないことを知っていた。クラブの女性なんかと関係を持つはずがない。
金目当ての盗撮者たちは本当に気持ち悪い。まさか社長を狙うとは、死にたいとしか思えない。
大谷希真は素早く行動し、ネット上で法的声明を発表すると同時に、真相も公表した。
すべては正体不明のクラブの女性が、酔った霧島冬真を誘惑しようとして、逆に突き飛ばされて病院送りになっただけのことだった。
あるサイトが投稿した数枚の根拠のない写真とは全く異なる事実だった。
間もなく、最初にニュースを配信したサイトも謝罪声明を出した。
この件は早々に収束し、霧島グループにも特に悪影響は及ばなかった。
しかし程なくして、彼の携帯電話が鳴った。夏目星澄の身辺警護を任されている者からの電話だった。
「社長、若奥様がネット上の件を知ったようで、怒って一日中何も食べていないそうです」
霧島冬真はこの知らせを聞いて、顔に喜色が浮かんだ。「本当か?」
「はい、若奥様の安全確保のため、撮影現場の警備員として潜入しているのですが、ニュースが出た直後、多くの人がこの件について噂していて、彼女がそれを耳にした後、表情が暗くなり、すぐに助手に食欲がないと言って食事を拒否したそうです」