大谷希真が去った後、病室は静かになった。
夏目星澄は気まずさを和らげるため、霧島冬真にリンゴの皮を剥いてあげることにした。「医者が栄養が必要だと言っていたから、このリンゴを食べてね」
霧島冬真は微笑みながら答えた。「ありがとう」
彼はリンゴを食べながら夏目星澄を見つめていた。
夏目星澄は見つめられて少し落ち着かなかったが、自分から残ると言い出したのだから何も言えなかった。
彼女は携帯を取り出して見て、花井風真に電話をかけて様子を聞こうと思った。帰宅後、おじいさんにまた問題を起こされていないかどうかを。
しかし、霧島冬真の前で聞くのは良くないと思い、外に出て電話をしようとした。
ところが彼女が立ち上がった途端、霧島冬真は尋ねた。「どこに行くの?」
まるで彼女が突然いなくなってしまうのを恐れているかのように、深い眼差しで彼女を見つめていた。
夏目星澄は携帯を振って見せた。「電話をかけてくるだけよ。すぐ戻るから」
「誰に電話するの?花井風真?」
「うん」
夏目星澄は否定しなかった。
「かけないでくれないか?」
「どうして?」
「君は彼のことが好きになったの?」
「え?」
夏目星澄は霧島冬真の言葉が意味不明だと感じた。ただ電話をかけたいだけなのに、好きかどうかとどんな関係があるのだろう?
しかし霧島冬真の目には、夏目星澄がすぐに否定しなかったことが心を痛めた。「星澄、君は彼のことを好きになってはいけない。彼は君には相応しくない。今日の出来事を見ただろう。重要な時に自分すら守れない彼が、どうやって君を守れるというんだ」
「考えすぎじゃないの?私と花井風真は親友よ。彼が困っているなら、当然助けるわ。それが相応しいとか好きとか、どんな関係があるの?」
「本当に親友だけ?」
「そうじゃないって言うの?私と彼が...」
彼女の言葉は霧島冬真に遮られた。「そうならよかった。花井風真が君の友達なら、私の友達でもある。これからは彼が困ったら、私も手伝うよ」
夏目星澄が友達だと言ったので、彼は安心した。
夏目星澄は軽く笑った。「あなたが彼に面倒をかけなければそれでいいわ。もう遅いし、早く休みましょう。私、明日用事があるの」
そう言って、もう一つのベッドに横になり、布団をかぶった。