病院に向かう途中。
夏目星澄は霧島冬真の傷を心配そうに見つめ、「今はどう?まだ痛む?」と尋ねた。
霧島冬真は躊躇なく「痛い」と答えた。
実際、体の痛みはたいしたことなかったが、ただ夏目星澄に心配してもらいたかっただけだった。
夏目星澄は霧島冬真が薬を塗る時の様子を見ていた。体中の傷は目を覆いたくなるほどひどかった。
その傷のすべてが自分を救うためについたものだと思うと、焦りを感じて「大谷補佐、車をもう少し急いでください」と言った。
「はい、夏目さん、できるだけ急ぎます」と大谷希真は即座に応えた。
霧島冬真の前では夏目星澄のことを若奥様と呼んでいたが、本人の前では夏目さんと呼んでいた。
そうすれば霧島冬真も喜び、夏目星澄も不快に思わないだろう。
彼は本当に賢かった。
スピードを上げると言ったものの、実際にはそうしなかった。霧島冬真が夏目星澄と一緒にいる時間を少しでも長くしたがっているのを知っていたからだ。
もし本当に急いで病院に着いてしまえば、二人が一緒にいられる時間が少なくなってしまう。
夏目星澄は霧島冬真の体から滲む血を見て、突然我慢できなくなったように「あなたったら、大人しく病院で療養していればいいのに、どうしてここに来たの」と不満を漏らした。
結局のところ、これは花井風真の家庭の問題で、彼女とは関係なく、彼とはなおさら関係なかった。
彼が来たことで事態は複雑になり、花井家の当主と対立しかけた。
霧島冬真は当然のように「君を守るために来たんだ。花井風真のあの頼りない様子じゃ、自分の身を守るのも精一杯で、君を守れるはずがない」と言った。
夏目星澄はため息をつき、真剣な表情で「じゃあ、私が花井風真と一緒にいて危険な目に遭うかもしれないって、どうして分かったの?」と尋ねた。
霧島冬真は体を硬くし、答える代わりに「僕が来たことで、君は怒ってる?」と聞き返した。
夏目星澄は表情を和らげ、「あなたが私を守るために来たって言うんだから、怒るわけないでしょう。ただ、あなたと花井家の関係が悪くなりすぎないか心配で」と答えた。