神田晓良は霧島冬真を見るなり心の支えを見つけたかのように、すぐに先ほどの状況を説明し始めた。
「どういうわけか分からないんですが、星澄さんの乗っていた馬が突然暴れ出して、山の方へ行ってしまって、もう姿が見えなくなってしまいました。」
霧島冬真はそれを聞いて、すぐに事態の深刻さを悟った。
すぐさま馬小屋へ走り、黒馬に跨って、夏目星澄が消えた方向へ追いかけていった。
後ろについてきた大谷希真は、それを見てひどく驚いた。
霧島冬真の体の傷はまだ回復期にあり、激しい運動は絶対に避けなければならないはずだった。感染すれば命取りになりかねないのだ!
しかし彼は馬に乗れないし、霧島冬真を止めることもできず、救援を呼ぶしかなかった。
撮影クルーの人々も皆後を追った。
その時の夏目星澄には、馬から落ちないようにするという一つの信念しかなかった。
落ちれば死なないまでも重傷は免れないだろう。
パニックと恐怖の感情が彼女の頭の中を支配していた。
両手も手綱を強く引きすぎたせいで血まみれになり、心が引き裂かれるような痛みを感じていた。
しばらくすると、手の中の手綱が滑り落ちてしまった。
体の重心を制御できず、馬から振り落とされそうになった瞬間。
後ろから霧島冬真の声が聞こえた。「星澄、怖がるな、馬の首をつかめ、落ちるな!」
夏目星澄は幻聴かと思った。
しかし次の瞬間、霧島冬真の姿が彼女の横に現れた。
夏目星澄は自分の目を疑った。
話す暇もなく、歯を食いしばって必死に馬の首にしがみつき、なんとか体勢を保った。
しかし下の馬は止まる気配を全く見せなかった。
霧島冬真は夏目星澄の今の状況が非常に危険だと分かっていた。これ以上救出が遅れれば、馬から振り落とされてしまうだろう。
彼は黒馬の脇腹を締め、できるだけ夏目星澄に近づき、自分の馬に引き寄せようとした。
しかし近づくたびに、夏目星澄の馬は逃げてしまう。
何度か試みたが全く上手くいかなかった。
夏目星澄も次第に力尽きてきた。「も...もう無理...つかまっていられない...」
霧島冬真は心の中で焦りを感じながらも、表情は冷静さを保っていた。「大丈夫だ、怖がるな、今すぐ助けに行く。」
この時、誰か反対側から馬を止められる人がいればいいのに。