夏目星澄は霧島冬真の言葉を聞き取り、突然頬が熱くなり、急いで車椅子に座り直した。「私...見るところなんてないわ、前にも見たことあるでしょう。」
霧島冬真は笑って、何も言わなかった。
夏目星澄は少し考えてから、やはり霧島冬真にお礼を言った。「どちらにしても、あなたは私を二度も救ってくれた。お礼を言わせて。」
しかし霧島冬真は、夏目星澄がそう言うのは、意図的に距離を置こうとしているように感じた。
彼は二人の関係がより疎遠になることを望んでいなかった。
霧島冬真は深い眼差しで目の前の最愛の女性を見つめた。「星澄、そんな風に言わないでくれ。僕はお礼なんて必要ない。君を救うのは僕の本望だ。一度でも二度でも、百回でも喜んでする。」
彼は夏目星澄の性格をよく知っていた。もし彼女を救ったことを取引材料にして、彼女に戻ってくるよう求めれば、きっと承諾するだろう。
しかし、彼はそうしたくなかった。
二人の始まりは「恩返し」だった。彼はそのような感情で再び彼女を縛りたくなかった。
霧島冬真が最初から最後まで求めていたのは、最も純粋な感情であり、いかなる利害関係も含まないものだった。
夏目星澄は彼の言葉を聞いて、かえって心が落ち着かなくなった。
「霧島冬真、それは誇れることじゃないわ。あなたが意識不明だった数日間、あなたの両親は心配で髪が白くなって、一晩で十歳も年を取ったみたいだったのよ。」
「私はあなたが私にしてくれた全てに感謝しているわ。でも、二度とこんなことがないことを願っているの。私たちは離婚したのよ。法律上、あなたには私を救う義務なんてないわ。あなたの家族こそが一番大切なの。彼らのためにも、あなたは生きていかなければならない。」
霧島冬真はしばらく沈黙した後、やっと口を開いた。「つまり、君が危険な目に遭っても、僕は見殺しにしろということか?星澄、そんなことを僕に求めるのが、僕にとってどれほど残酷なことか、分からないのか?」
「確かに離婚はした。でも僕は今でも君を愛している。どうして君を見捨てることができるだろうか。もう一度やり直せたとしても、僕は躊躇なく君を救うことを選ぶ。」
夏目星澄は口を開いたが、何を言えばいいのか分からなかった。
霧島冬真の深い眼差しが、彼女をじっと見つめていた。