緒方諒真がいるので、夏目星澄が損をすることはないだろう。
しかし「ヒーロー救美」のチャンスは、やはり霧島冬真本人にやらせるのが相応しい。
電話が切れた。
霧島冬真は一秒も座っていられず、急いで大谷希真に車椅子を持ってくるよう頼んだ。
大谷希真も電話での会話を少し聞いていたので、きっと夏目星澄に関することだから、霧島社長がこんなに焦っているのだろうと察した。
しかし、霧島社長の今の状態では遠出など到底できない。
「社長、慌てないでください。花井家には緒方社長がいらっしゃるじゃないですか。若奥様は絶対に大丈夫です。それに医者も先ほど静養が必要だと言っていましたし、この足が...」
霧島冬真は冷たい目で見つめ、「それでもダメだ。私が直接行かなければならない。緒方諒真は他の者には対処できても、花井正道という老狐には太刀打ちできない」
そう言いながら、すでにベッドから起き上がっていた。
大谷希真は仕方なく彼の意思に従い、霧島冬真を支えに行った。
しかしその時、病室のドアが開き、原田先生が入ってきた。
彼は霧島冬真が車椅子に乗ろうとしているのを見て、不思議そうに尋ねた。「霧島社長、こんな遅くにどちらへ?」
「急用があって、ちょっと出かけなければならない」
「出かける?そんなことは絶対にできません。今のあなたの体調では病院を離れることは許されません。もし何かあったら、助けるのも間に合わないかもしれません」
しかし霧島冬真は原田先生の言葉に含まれる危険性を聞き流したかのように、出かけることに固執した。「それでも行かなければならない。原田先生、止めることはできないでしょう」
原田健一は急に焦り出した。「一体何が重要なことなのか、自分の命も顧みないほどとは。それに、やっと足の具合が良くなってきたところなのに、しっかり静養しなければ!」
「原田先生、私のことを考えてくれているのはわかっています。でも今日は必ず行かなければならないんです。もし本当に何かあっても、先生や病院に責任を問うことはありません」霧島冬真は原田健一の善意を理解していたが、足のことよりも夏目星澄のことの方が大切だった。