第389章 もう二度とあなたの手を離さない

夏目星澄と霧島冬真はこの時、病室に戻っていた。

車椅子での移動で何度も苦労し、痛みで冷や汗が出て、顔色も随分と青ざめていた。

ただ、夏目星澄を心配させないように、痛いという言葉は一言も口にしなかった。

しかし夏目星澄は目が見えているので、それがわかっていた。

霧島冬真がようやくベッドに横たわった時、すぐにお湯を用意し、タオルを絞って、彼の体を拭いてあげた。

霧島冬真は最初、少し恥ずかしがって断ろうとした。「大丈夫だよ」

夏目星澄は聞く耳を持たず、彼の服をめくって拭き始めた。

「何が大丈夫よ。見てごらんなさい、痛くて汗びっしょりじゃない。強がってばかり」

足を拭く時、夏目星澄の心が痛んだ。より慎重に拭きながら「痛い?」と尋ねた。

霧島冬真は淡々とした口調で「痛くない」と答えた。

「また嘘ついて。ここ腫れてるのに、痛くないわけないでしょう」夏目星澄は拭きながら目が赤くなってきた。

「約束したでしょう。私がすぐに戻ってくるって。何かあっても自分で解決できるって。なのにどうしてわざわざ来たの?今はあなたの足のことが一番大事なのに、わかってないの!」

霧島冬真は叱られても怒るどころか、むしろ嬉しそうだった。これは自分が夏目星澄の心の中でもう無くてはならない存在になったという証だから。

夏目星澄が顔を上げると、霧島冬真がにこにこと自分を見つめているのに気づき、瞬時に腹が立った。「よく笑えるわね。痛みで気絶すればいいのに、そしたら楽になるでしょう!」

霧島冬真は突然、艶のある声で尋ねた。「君は僕がそんなに痛むのを見たいの?」

夏目星澄は体を拭く手が一瞬止まり、戸惑いながら背を向けて、タオルを後ろの洗面器に入れ、何度も浸して心を落ち着かせようとした。

彼の言葉を聞かなかったふりをして、引き続き体を拭いた。

しかし霧島冬真はじっと彼女を見つめ続け、まるで彼女の口から答えを聞きたがっているかのようだった。

夏目星澄は彼の視線に居心地が悪くなり、急いで話題を変えた。「今日、花井家に行ったのは、緒方諒真が私のことを話したからでしょう?」

当時、緒方諒真が彼女を守ってくれてすぐに霧島冬真が来たので、きっと緒方諒真が何か密かに伝えたのだと思った。