夏目星澄は松岡静香を心配させないように、出張に行くと嘘をついた。
霧島冬真は病院に残って彼女の世話を続けていた。
しかし夏目星澄は、彼自身も患者であるのに、そんなに苦労させたくなかった。
霧島冬真の足は車椅子から解放されたものの、完全に回復するにはまだ長期のリハビリが必要だった。
夏目星澄の刀傷は深くなく、病床で一週間過ごせば歩けるようになった。
彼女がベッドから降りて最初にしたことは、坂口嘉元を見舞うことだった。
あの時、彼が適切なタイミングで現れて、あの変態男から彼女を守ってくれなかったら、霧島冬真が来るまで持ちこたえられなかっただろう。
だから坂口嘉元は命の恩人であり、きちんとお礼を言わなければならなかった。
坂口嘉元の体調も少し回復し、ベッドで本を読んでいた。
ノックの音を聞いて、「どうぞ」と応えた。
夏目星澄と霧島冬真が入ってきて、後ろの大谷希真は花とフルーツバスケットを持っていた。
坂口嘉元は夏目星澄を見て驚きと喜びを感じた。「星澄さん、どうしてここに?体は大丈夫なの?」
夏目星澄はベッドの側に来て、坂口嘉元を注意深く観察した。「うん、だいぶ良くなったから、様子を見に来たの。あなたはどう?」
坂口嘉元は手の本を置いて、優しく微笑んで言った。「僕も順調に回復してて、あと一週間で退院できそうです。」
夏目星澄は感謝の表情で言った。「あの時は本当にありがとう。あなたがいなかったら、私は...」
坂口嘉元はかえって恥ずかしそうだった。「そんな風に言わないでください。危険な目に遭っているのを見たら、助けるのは当然です。ただ、私の動きが遅くて、悪者に隙を与えてしまって...」
「どう考えても感謝しなきゃいけないわ。あなたが怪我をしたのも私のせいだし、退院したら、必ずご馳走させてください。」
坂口嘉元は軽く首を振った。「退院後は海外で撮影があるので、時間がないかもしれません。でも、あなたが無事で良かったです。」
実は、今回夏目星澄を救ったことは損ではなかった。体は苦しんだものの、仕事面では多くのリソースを得ることができた。
霧島冬真が既に夏目星澄の代わりに彼に補償をしていたのだ。
もちろん、霧島冬真がそうしたのは、命の恩を盾に夏目星澄に過度な執着を見せないようにするためだということも理解していた。