授賞式が終わり、祝賀会が始まった。
メディス・インターコンチネンタルホテルの中は、芸能人で溢れ、杯を交わす光景が広がっていた。
多くの人々が受賞者に祝福の酒を勧めていた。
夏目星澄は酒が弱かったが、断るわけにもいかなかった。
そんな時、緒方諒真が近づいてきて、彼女の代わりに多くの酒を引き受けた。
他の人々も緒方諒真の夏目星澄への気遣いに気付き、二人の間に何か関係があるのだろうと思い、強要することはなかった。むしろ彼の前で星澄の演技の素晴らしさを褒め、共演を望むような言葉を口にした。
緒方諒真は微笑んで、「夏目さんに代わって皆様のご期待に感謝申し上げます。私たちはまだ用事がありますので、これで失礼させていただきます」と言った。
そう言いながら、彼は夏目星澄を騒がしい人混みから連れ出した。
夏目星澄もほっと息をつき、「先ほどはありがとうございました、緒方社長」と言った。
緒方諒真は手に持った赤ワインのグラスを揺らしながら、口角を上げて言った。「私も頼まれていただけですから、お義姉さん、そんなに気を遣わないでください」
「緒方社長、私と冬真さんはもう離婚していますから、お義姉さんという呼び方はやめてください」
「元お義姉さんも、お義姉さんですよ。それに、あなたと冬真さんは復縁を考えているんでしょう?だったらやっぱりお義姉さんです」
「霧島冬真があなたに話したの?」
「いいえ、私が推測しただけです。私って賢いでしょう!」緒方諒真の目には隠しきれない得意げな表情が浮かんでいた。
彼は長年恋愛の世界を渡り歩いてきたため、ちょっと見ただけで霧島冬真と夏目星澄の関係がどういうものか分かった。
復縁というのは彼の推測に過ぎなかった。
しかし夏目星澄の態度を見れば、彼の推測が当たっていたことが分かった。
夏目星澄は笑うだけで何も言わなかった。
緒方諒真はバルコニーの方を指差して、「冬真さんがあそこで待っていますよ」と言った。
夏目星澄は少し考えてから、そちらへ向かった。
二階のテラスの外にはホテルのシャンゼリゼ庭園があり、夜風は少し冷たく、星澄の前髪を揺らし、白く滑らかな額を露わにした。
授賞式に出席するため、彼女は薄手のイブニングドレス一枚だけを着ていて、今、冷たい風が吹くと、思わず体を震わせた。