「星澄さん、監督が呼んでいます。あの...」神田晓良は時間が来たと思い、夏目星澄を撮影に呼びに来た。
ところがドアを開けると、霧島冬真が夏目星澄を抱きしめ、キスしようとしているところだった。
神田晓良は顔を真っ赤にして、慌ててドアを閉めた。「すみません、すみません、何も見ていません。どうぞお続けください。」
彼女もドラマでは男女の主役のキスシーンをたくさん見てきた。
でも、現場で見るのは初めてだった。
とてもドキドキした。
彼女まで恋愛したくなってしまった!
夏目星澄も霧島冬真との親密な様子を神田晓良に見られるとは思わなかった。
慌てて彼を押しのけ、顔を赤らめながら言った。「撮影に行かなきゃ。あの...あの...先に帰ってください。」
霧島冬真は特に気まずさを感じていない様子で、夏目星澄の頬を優しく撫でながら柔らかく言った。「帰らないよ。撮影が終わるまでここで君を待っている。」
「撮影時間は決まってないの。食事の時しか休めないし、退屈だと思うわ。」
「退屈なんかじゃない。君を見ているだけで十分だよ。それに、お腹にベビーがいるんだから、母子三人を守らないと。」
前回、夏目星澄が撮影現場で馬に乗って事故に遭った件が、まだ心に残っていた。
だから、どうしても残るつもりだった。
夏目星澄は霧島冬真が自分のためにこれほど犠牲を払っているのを考えると、彼を残らせることにした。
撮影が終わったのは夜の8時だった。
それも監督が一本の電話を受けた後で、やっと撮影終了を宣言したのだった。
夏目星澄はその電話が霧島冬真からのものではないかと疑っていた。
撮影を終えたばかりの彼女のところに、霧島冬真が歩み寄り、上着を彼女の肩にかけた。「風邪を引かないように。」
夏目星澄は身に着けた上着を整えながら、「さっき中村監督が受けた電話、あなたからじゃないの?早く終わらせるように言ったの?」
霧島冬真はすぐに携帯を夏目星澄の前に差し出した。「冤罪だよ。見てごらん、電池切れで電話なんてできないじゃないか。」
夏目星澄は霧島冬真の携帯を見て、確かに電池が切れていた。もしかして自分の考えすぎだったのか?
実は中村監督が電話を受けて撮影を終了したのは事実だが、それは霧島冬真からではなく、大谷希真からの電話だった。