やはり公開することに決めた

退院の日、千葉隆弘は小山千恵子の手続きを済ませ、言いよどんだ後、やはり口を開いた。

「千恵子さん、横山先生に電話をしました」

小山千恵子は表情を変えなかったが、瞳が微かに震えていた。「横山先生は何と?」

「誤診の可能性は低いと……申し訳ありません」

小山千恵子の宙ぶらりんだった心が少し落ち着いた。

自分の体のことは、自分が一番分かっている。

誤診と聞いた時、彼女にも一瞬の期待があった。

しかし、日に日に弱っていく体と、あちこちに現れる青あざは、自分を欺くことができなかった。

唯一恐れていた結果は、誤解によって腹の中の命を終わらせてしまったことだった。

千葉隆弘は小山千恵子の表情が良くなったのを見て、ほっと息をつき、続けた。

「それに横山先生によると、あなたの血液検査の結果はまだ悪かったそうです。彼は血液検査の報告書を若い女性に渡したそうです」

小山千恵子の潤んだ目に驚きが満ちた。「桜井美月?」

千葉隆弘は真剣な眼差しを向け、うなずいた。

「その可能性が高いです。最も不可解なのは、横山先生がその日の退勤前に異動の通知を受け取り、すぐにアメリカへの交換留学に行くことになったことです。」

小山千恵子は目を伏せて考え込んだ。「そして白野先生が引き継いで、誤診になった。」

彼女は特に驚かなかった。

桜井美月がこうして騒ぎ立てたのも良かった。

病気で浅野武樹の同情を買いたくはなかった。

郊外のスタジオはもう安全ではなくなった。小山千恵子は親友の藤原晴子に頼んで、人を連れて作品を取り出してきてもらった。

小山千恵子は退院手続きを済ませ、藤原晴子と約束したカフェに向かった。

入るなり、隅に座る女性が見えた。パソコンのキーボードをカタカタと打ち、傍らには真っ黒な特大サイズのアメリカンコーヒーが置かれていた。

「また寝てないの?」小山千恵子は座るなり藤原晴子をからかった。

後者は小指を立て、大げさにこめかみをさすった。「お嬢様の急な依頼のせいでしょ。こんな急に競売に出すなんて。鑑定、検査、身分確認と、手続きが山のよう」

藤原晴子は小山千恵子の親友であり、ビジネスパートナーでもあった。普段はタレントマネージャーとして、多くのイケメン俳優を抱えていた。

以前、小山千恵子が表に出たくないという理由で、彼女のスタジオとブランドは全て藤原晴子名義で登録されていた。

祖父の療養費を工面するため、小山千恵子は窮地に追い込まれ、コレクションを売却して現金化する必要があった。

藤原晴子は真面目な表情で、小山千恵子の腕を注意深く観察した。「どう?良くなった?」

小山千恵子は傷跡を隠すように袖の中に手を引っ込め、手を振った。「大丈夫よ。それより、荷物を取りに行った時、危険な目には遭わなかった?」

藤原晴子はソファに足を組んで座り、興奮した様子で、周りを見回してから声を潜め、生き生きと話し始めた。

「何も問題なかったわ。イケメン俳優たちを連れて行ったの。みんなすごく親切だったわ。親友が騙されたって聞いて、通りの監視カメラ全部調べてくれたのよ。」

そう言って資料の束を渡した。「ほら、写真と、あの暴漢たちの基本情報が全部ここに」

小山千恵子は眉を上げ、かなり驚いた様子で「そんなにすごいの?」

藤原晴子は得意げな表情を浮かべた。「お茶の子さいさい。でも聞いたところによると、浅野武樹があの連中を一時的に拘束したらしいわ。出てきた後はどこかに逃げてしまって、もう帝都には現れないみたい。それに、これ。リーダーの男なんだけど」

藤原晴子は写真を指さし、小声で続けた。「片手を潰されたらしいわ。もう半人前だって」

小山千恵子は息を飲んだ。

この男は、ナイフで彼女を傷つけた張本人だった。

彼女の心は複雑な感情で一杯になり、あの日の浅野武樹の神々しい姿が脳裏に浮かんだ。

小山千恵子は目を伏せ、温かいラテを一口飲んで、話題を変えた。

「今回のオークション、私、公に姿を現すつもり」

藤原晴子は急に顔を上げ、頭の上に疑問符が浮かぶような表情で、目には「大丈夫?」という言葉が書かれていた。

「サンダースの正体を公表するの?」

小山千恵子の目には隠しきれない諦めが浮かび、うなずいた。

やむを得ない事情がなければ、彼女もそうしたくはなかった。

「今すぐにお金が必要なの、急いでいるし。浅野武樹と離婚した後は、もう身分を隠す必要もないでしょう。」

かつて小山千恵子が自分を表に出さなかったのは、浅野家の名声を利用して金儲けをしていると噂されるのを恐れたからだった。

しかし今や、浅野武樹に新しい恋人ができて離婚を考えているという噂は帝都中に広まり、それが逆に彼女に自由をもたらした。

藤原晴子は頭を掻き、まだ少し呆然としていた。

いつかこの日が来ることは予想していたが、まさか今日だとは思わなかった。

「浅野武樹があなたに買ってあげたウェディングドレスの真相を知ったら、きっと怒って死ぬほどだわ」

小山千恵子は目を伏せ、無意識にコーヒーカップの模様を撫でた。

当時、彼女は理想のウェディングドレスをモデルにして、この作品をデザインした。

本当に気に入って、とても満足だったので、我慢できずに浅野武樹に見せてみた。

そして彼に、どう思うかと尋ねた。

予想外にも、浅野武樹は八方手を尽くして、このドレスの最終購入者となった。

ドレスが自分の手元に戻ってきたことを知った時、小山千恵子は驚きと喜びでいっぱいだった。

しかし彼女はこの甘い秘密を守るしかなかった。

浅野武樹がこのウェディングドレスに支払った金額は、全て小山千恵子によってこっそりと寄付されていた。

「千恵子、千恵子?」藤原晴子は何度も呼びかけた。

小山千恵子は我に返り、口元に無理な笑みを浮かべた。

かつての思い出が美しければ美しいほど、今思い返すと心が痛んだ。

彼女は小声で藤原晴子に指示した。「記事を配信するのを忘れないで。魚が多く集まれば集まるほど、価格も上がる可能性があるから」

藤原晴子は元々ベテランのマネージャーで、話題作りやトレンド入り、世論操作は手慣れたものだった。

すぐに、サンダースがサザビーズのオークションに姿を現すというニュースは、帝都中に広まっただけでなく、海都市の富裕層の間でも話題となった。

一時、サザビーズのオークションの招待状は引く手数多で、入手困難となった。

桜井美月は記事を見て、狡猾な笑みを浮かべた。待っていたチャンスがついに来た。

ウェディングドレスはサザビーズでオークションにかけられるだけでなく、サンダースが公に姿を現すというのだ。

彼女は全ての人々の注目の中で、そのドレスの所有権を手に入れるのだ!

浅野実家のダイニングテーブルで。

桜井美月は箸を置き、静寂を破って口を開いた。「武樹さん、聞いたのか?サンダースがサザビーズのオークションに姿を現すそうだ」

浅野武樹は眉をひそめた。

触れてほしくない話題を持ち出された。

彼は返事をせず、ゆっくりとスープを飲み干し、口元を拭ってから口を開いた。「デザイナー本人は来ない」

彼には分かっていた。デザイナーが正体を公表するという噂は、間違いなく小山千恵子が流したものだ。

彼女はただより多くの大物を釣り、オークション価格を上げたいだけだ。

浅野武樹は心の中で冷笑した。

小山千恵子のこういった手段は、彼から学んだものだった。

桜井美月はまだ諦めきれず、浅野武樹に身を寄せ、意味ありげに懇願した。

「武樹さん、私も見に行きたい。だってサンダースのウェディングドレスよ。どんな女の子だって欲しがるよね……」

桜井美月の甘えに、浅野武樹は無関心だった。

そうだ、どんな女性も欲しがる、かつて彼もそう思っていた。

傍らに座っていた浅野遥は咳払いをした。「武樹、ただのオークションだ。美月を連れて行ってやれ」

浅野武樹は眉間にしわを寄せ、二口ほど食べただけで箸を置き、席を立った。「分かった」

桜井美月は内心喜んだ。浅野旦那様のこの一言こそが欲しかったのだ。

その時が来たら、このウェディングドレスは、武樹さんが気に入ろうが気に入るまいが、必ず彼女のものにしてみせる!