誰が彼女にこんな服を着させたのか
藤原晴子は離れて見てみた。
そしてバッグから真珠のついた長手袋を取り出し、小山千恵子の身につけているアクセサリーとぴったり合うものだった。
「はい、これをつけて傷跡を隠しましょう。それに、足にこんなにたくさんの青あざがあるなんて。普段から気をつけてね。」
藤原晴子が地面に座って自分の足の青あざを隠してくれるのを見ながら、小山千恵子は自分の病気のことを彼女に告げようとしたが。
考え直して、やめることにした。
最近、問題が多すぎるから。
このことは……後で彼女に話そう。
ついにメイン会場に入り、オークション開始まであと十分だった。
小山千恵子は招待客リストを何度も確認し、心の中で予想を立てた。
このウェディングドレスは、約2億万円で落札されるだろう。
そうすれば、祖父の療養費の心配をしなくて済む。
浅野武樹が会場に入って席に着き、桜井美月は彼の隣に座った。
男は顔を上げ、本能的にあの見慣れた姿を探した。
浅野武樹は前列に座っている小山千恵子を見つけた。その後ろ姿は細くて寂しげだった。
巻き毛が片方の肩にだらりと垂れ、もう片方の肩甲骨が突き出て、真っ白な背中の中で特に目立っていた。
浅野武樹は喉が詰り、体の中に無意識の熱が湧き上がった。
彼女は……こんなドレスを着たことがなかった。
小山千恵子は誰かが自分を呼ぶのを聞いたような気がして、振り返って探したとき、ちょうど浅野武樹の欲望と独占欲に満ちた目と合った。
一瞬にして、会場の騒音が消え去った。
浅野武樹は小山千恵子の綺麗な化粧をした顔と、繊細な鎖骨、そして胸元の白い肌を見た。
そして小山千恵子は、浅野武樹の目に渦巻く欲望をはっきりと見かけた。
小山千恵子は目を伏せ、頬を赤らめながら、素早く視線をそらした。
立ち上がって、振り返って手を振った。
浅野武樹は欲望とともに怒りが込み上げ、ドレスのスリットから覗く細い白い脚を不機嫌そうに見つめた。
誰がこんな服を着させたんだ！
遠くから小山千恵子に近づいてきたのは、千葉家の次男のようだった。
周りでは様々な噂話が飛び交っていた。
浅野武樹はそれを聞いて、さらに表情が険しくなった。
「あれが小山千恵子？こんなに綺麗だったなんて知らなかった。」
「浅野武樹が離婚を望んだなんて、今は理解できないわ。俺は美人に対する偏見なしよ」
「隣に座っているのは千葉家の次男でしょう？二人はどういう関係なの？すごく親密そうね。いつから付き合ってるの？」
「周りのおじさんたち見てよ、目が彼女から離せないみたい」
桜井美月も浅野武樹の視線の先を追って、遠くの小山千恵子を見た。
彼女は心の中で歯ぎしりした。
もともと狐のような魅惑的な顔立ちなのに、今はこんな格好までして！
それに、いつから千葉家と関係を持つようになったの？
小山千恵子が数回咳をし、千葉隆弘が彼女にコートを掛けてあげるのを見て、桜井美月は心の中で密かに喜んだ。
そうだ、あの女はもうすぐ死ぬんだ。
好き勝手できる日もそう長くはない。
千葉隆弘は座ってから、まだ息が落ち着かない様子で、輝く目で小山千恵子を見つめた。
「千恵子さん、今日は本当に綺麗ですね。もう少し見ていてもいいですか？」
小山千恵子は肘で軽く彼を突いた。
「ふざけないで。今日はお金を稼ぎに来たの。ちゃんと見ていてね」
千葉隆弘はそれ以上主張せず、姿勢を正してステージを見た。
オークションがまもなく始まる。
競売品が順番に登場した。
江戸時代の扇子、大和陶磁器、イタリアの銘醸ワイン、そして文豪の直筆原稿などがあった。
会場の雰囲気が徐々に盛り上がってきた。
ついに最後の競売品となった。
これらの高価な骨董品と比べて、今回の来場者がより興味を持っているのは、明らかにこのサンダースのウェディングドレスだった。
会場の照明が暗くなり、展示台にスポットライトとフラッシュが集中した。
小山千恵子が一年近くかけて、全て手作業で縫い上げたウェディングドレスが、観客の前に姿を現した。
エレガントなマーメイドラインが洗練された優雅さを醸し出し、後ろには扇形のトレーンが立体的な層を成している。
全体に特殊な技法で作られた刺繍レースが施され、上半身にはビジューとパールで体のラインが描かれていた。
よく見ると、重なり合うレースの上に、2つのアイリスの花の形で、愛し合う二人の一生が描かれており、その製作技術は最高と言える。
完璧なカッティング技術とコーディネートにより、ドレス全体が夢のような輝きを放っていた。
浅野武樹の表情が変わり、眉間に無意識のしわが寄った。
彼は何度も小山千恵子がこれを着ている姿を想像していた。
彼にはある感覚があった。
このウェディングドレスは彼女のために生まれてきたのだと。
小山千恵子は平然とした表情を保っていた。
彼女はこの作品をよく知っていた。
針ごとの方向性を、全て覚えていた。
浅野武樹への全ての愛情と、結婚への期待を、全て少しずつこのウェディングドレスに縫い込んだのだ。
来場者たちはステージ上の説明に合わせて、時に議論し、時に小さな驚きの声を上げた。
小山千恵子の心に苦い思いが込み上げてきた。
おそらく、もう二度とウェディングドレスを作ることはできないだろう。
もう結婚に対して、どんな憧れも期待も持つことができなくなってしまった。
「開始価格1億1千万円、入札開始いたします」
千葉隆弘は隣に静かに座っている小山千恵子を見て、大人しく座ったまま、手を挙げなかった。
価格は1億5千万円まで上がった。
値上げの頻度が下がり始めた。
千葉隆弘は突然札を上げた。「1億7千万円」
浅野武樹の表情が暗くなり、冷たい目で小山千恵子のいる方向を見た。
彼女は隣の人を責めるような目で見たようだった。
しかし千葉隆弘はただ笑って、頭を下げて何か言い、それ以上何も言わなかった。
浅野武樹は小山千恵子の冷たく美しい横顔を見つめ、眉をひそめた。
彼女と若造が仕掛けた小細工に、彼が引っかかるわけがない。
千葉隆弘がパドルを上げて値段を付けるのを見て、桜井美月は本能的に、小山千恵子がこのサンダースのドレスを争おうとしているのだと感じ取った。
彼女は歯を食いしばって表面の品位を保ちながら、パドルを上げようとした。
浅野武樹は彼女の手を押さえた。
「どうしてもこれが必要なのか？」
価格が1億9千万円まで上がるのを見て、桜井美月は心の中で焦りに焦った。
しかし表面は可愛らしく不満げに、話す言葉も媚びた感じだった。
「そうよ、武樹さんだって知ってるでしょ。前にも言ったのに、全然覚えてないの。今、千恵子さんが手を出そうとしてるのを見て、彼女に譲りたいの？惜しいと思ったのか……」
浅野武樹はこの言葉に怒りが込み上げたが、怒ることもできなかった。
まるで桜井美月のためにこのドレスを落札しないなら、彼が約束を破ることになるみたいだ！
桜井美月は不満げに頭を下げた。「いいわ、千恵子さんに譲りましょう。もう値を付けないわ。」
浅野武樹は脅されるのが嫌いだった。
しかし小山千恵子のあの頭痛の種で嫌悪感を覚える行動を思い出し、眉間をさすりながら、札を上げた。
「3億円」
会場中が驚きの声を上げた。
小山千恵子も驚いて振り返り、表情の硬い浅野武樹を見た。
そして彼の隣で甘く微笑む桜井美月を。
千葉隆弘も驚いた表情で、小山千恵子の耳元に身を寄せ、小声で尋ねた。
「彼、こんな高値を付けるなんて、本当に欲しいんですか？これはあなたに贈るために買ったものじゃないんですか？」
小山千恵子は笑って、手で口を隠しながら、小声で答えた。
「今は……おそらく他の人に贈ることになるでしょう」
千葉隆弘は笑いを抑えきれなかった。「大損ですね。じゃあ、もう少し値段を上げてあげましょう」